「確かに千差万別だが、結婚に対する憧れは女性の方が強いのかもしれない。 男は、やはり甲斐性というものを背負っているわけだから。 結婚したからといって、四六時中一緒にいられるわけではないだろ? それは、食べていくために働いているのだから当然と言えば当然だ。 一緒に暮らしているうちに、こんなはずじゃなかったということも出てくるだろう。 ままごととは、わけが違う。 1つの家庭を、2人で築いていくのだから。 一緒に生活して行く上で、いろいろなことにも直面して、1つ、1つクリアしていかなければならない。 その都度、嫌だからといって逃げ出すわけにもいかないだろう。 前にも言ったと思うが、お互いがお互いに成長してこそ、お互いを尊重し合える。 そうすれば、自ずと道は開けて来る」
結婚は、そんなに簡単なものじゃないんだ。
ただ、一緒にいたいから……だけでは、駄目なんだ。
そこまでというか、そんな先のことまで考えたことなんてなかったかもしれない。
結婚のことを、もっと気軽に考えていた気がする。
好きになった人と、一緒に生活したい。 一緒に、素敵な家庭を築きたい。 これ、みんなただの憧れみたいなもので、具体的にどうとかなんて何も考えたことなかった。
「でも、どうして……。 高橋さんは、結婚しないとか、出来ないとかって……何も、そんな最初から諦めてるような言い方をしなくても……」
隣に座っている高橋さんをもう1度見ると、前を向いていた高橋さんがこちらを見た。
「太田に言ったことか?」
うっ。
ハッ……。
咄嗟に、勢いよく頷いてしまった。
「あれか。 あれは、半分は社交辞令。 でも、半分は本音?」
本音? って、私に聞かれても……。
「何でなんですか?」
「フッ……。 こんな面倒臭い男は、どう考えても無理だろ? しかし、だからと言って将来を葬ったわけではない。 そうでなければ、進歩は出来ないし……。 それが、結婚という形かどうかは分からないが、男はやはり守るべきものがなければと思える生き物だからな」
高橋さんは微笑んではいたけれど、何だかとても寂しそうな目をしながら黙って煙草に火を点けた。
「お前は、そういう素直なところがいいわけで……。 最近は、本当に自分の意見も言えるようになって、自分の意思をしっかり持てるようになった」
「そ、そんなことないです」
そんな風に、面と向かって言われると照れちゃう。