体の微振動で、グラスの中の水が静かにゆらゆらと揺れている。 まるで、私の心の中と同じみたい。
「女の子は、恋愛と結婚はイコールの人もいますけど……男の人は、違うんですか?」
自然と口に出して、聞いていた。
「さあ……どうかな? それは、その人にもよるんじゃないのか?」
「そうなんですか。 あの……高橋さんは?」
酔っているからか、普段なら恥ずかしくて聞けないようなことを、臆せずどんどん言ってしまっている自分が怖い。
「……」
でも高橋さんは、なかなか応えてはくれなかったので、聞いてしまったことを後悔した。
きっと、応えたくないんだ。
だいたい、こんなことをいきなり聞かれても困るよね。
謝ろう。
聞かなければ良かった。
「あの……」 
「俺は……」
エッ……。
2人の声が、重なってしまった。
「俺は、恋愛と結婚は別物だ」
高橋さん。
「そ、そうですよね。  普通、恋愛=結婚とかって、直ぐに結びつけないですもんね」
焦ってその場を取り繕いながら高橋さんを見たが、微かな空気の流れが感じられた。
恐らく、私が不用意に今動いたせいだろうか。
ジッと、お互い見つめ合ってしまったが、私が耐えきれなくなって先に目を逸らせてしまった。
「あ、あの、私……もう寝ます。 お、おやすみなさい。 うわっ!」
酔っていたことも忘れて慌てて立ち上がろうとしたため、よろけて高橋さんに腕を掴まれて、またソファーに座らされた。
「お前……」
高橋さんの声に反応して何か言われると思って萎縮してしまい、横に座っている高橋さんの顔を見ることが出来ずに前を向いたまま床の一点を見つめていた。
「そのままでいいから、聞いてくれ」
隣に座っている高橋さんが、きっとこちらを見ているのだろう。 声が右耳の近くでよく聞こえている。
「結婚というものは、ただ単に好きとか、憧れだけでは出来ないんだ」
そんな話の切り出し方に驚いて、高橋さんを見た。
エッ……。
高橋さん。 
何で、そんなに寂しそうな目をしてるの?
とても、哀しそう。
それは、まるで果てしなく遠くを見ているようだった。
でも、その哀しげな瞳は、直ぐに私の視界から消えてしまった。
高橋さんが、前を向いてしまったから。
「好きだから、一緒にいたい。 純粋にそう思った結果が、結婚という形なのかもしれないが……。 だが、それだけでは現実的には難しい。 精神的にも、経済的にも、すべて関わってくるわけだから。 ずっと一緒に居るのだから、具合の悪い時だってあるわけだし。 頑張ればやっていけるとか、そんな漠然としたことだけでは結婚生活はやっていかれない。 現実は、そんな生易しいものじゃないと思う」
高橋さん……。