エッ……。
その女性は、いきなり高橋さんの首に両腕を回すと、そのまま抱きついて高橋さんにキスをした。
嘘……でしょう?
誰? この人。
それは、挨拶と呼べるhug的なものではなく、まるで恋人同士がするような濃厚なキスだった。
嫌だ。
高橋さんは、右手にグラスを持っているので、右手を広げてその女性からグラスを離している。
一瞬だけ、土屋さんの時のことが、脳裏を掠めた。
まるで、そこだけ時間が止まってしまっているような、美男美女の恋人同士の綺麗な風景に見える。
「キャサリン!」
太田さんが、その女性の名前なのか? 呼びかけると、やはりキャサリンとは高橋さんとキスしていた女性だったらしく、太田さんの声でやっと離れたが、太田さんを見て直ぐさま私の顔を見るなり高橋さんに何か話し掛けていた。
「Is she a wife?」
「No, it is my assistant」
「It was really good」
早くて分からなかったが、何か会話を交わしている。
「キャサリンは、高橋さんのことが大好きだったんだよ」
「そうなんですか……」
心臓が、ドキドキしている。
その後、キャサリンという人は、二言、三言、高橋さんと言葉を交わすと何処かに行ってしまい、高橋さんは何事もなかったように、そのままこちらに向かって歩いてきた。
高橋さんのこういうところが、よく分からない。
どうして、そんなに平静を装えるのか?
それとも、元々、慣れているから動じないだけなのか?
「相変わらず、キャサリンは元気だな」
キャサリンという人が行ってしまった方を見ながら、そんなことを太田さんに言っている。
「変わらないですね。 高橋さんがはっきり言ってあげないから、諦めきれないんじゃないですか?」
「まさか」
何?