後ろから声を掛けられて振り向くと、太田さんが立っていた。
「太田さん。 おはようございます。 お久しぶりです。 また、よろしくお願いします」
太田さんは、相変わらず紳士なのだが、人をドキッとさせるのが得意のようだ。
「こちらこそ、よろしく。 あっ。 また、コーヒー飲みに行く?」
「アハッ! そうですね」
前回は、何処に連れて行かれるのかと不安に思ったが、今回は素直にお誘いに乗って美味しいコーヒーをご馳走になって戻ってくると、やっと落ち着いたのか事務所は静かになっていて、慌てて高橋さんの元に向かった。
「じゃあ、そろそろ始めるから」
そう言った時の高橋さんの顔は、もう昨日までの私の知っている高橋さんではなく、仕事の顔になっていた。
やっぱり、こうでないと駄目なんだな。
ふと、自分はどうなんだろうと思いつつ、朝から仕事に追われていた。
支店長とランチを済ませ、午後の仕事に取りかかってあたふたしているうちに、退社時間になってしまった。
残業は出来ないので、そのままにして帰ることに……。
今夜はレセプションで、また出掛けることになっていたので、 一旦、ホテルに帰って着替えなければならないが、会場への迎えの車が来るまでにはまだ少し時間があった。
「ちょっと、寄って行きたい所があるんだが、いいか?」
「あっ……はい」
そのまま高橋さんは、ホテルのある方向に車を走らせたが、途中でショッピングモールのようなところのパーキングに車を停めた。
「一緒に行くか? 此処で、待っていてもいいが」
「一緒に、行ってもいいですか?」
車に1人で待っているのは、ちょっと心細かったので一緒に行くことにした。 
あれ?
この店構えは、見た記憶があった。
そう……。