誰か、知ってる人でも居るの?
だとしたら、泣いてる所を見られちゃうから恥ずかしいな。
高橋さんに言われて、慌てて涙を拭いながら恐る恐る後ろを振り返った。
あっ!
「夕陽……」
思わず声に出して振り返ると、高橋さんが直ぐ後ろに居た。
「綺麗だろ?」
つい、怒っていたことも忘れて頷くと、高橋さんは涙を拭ってくれながら私の両肩を持って体ごと前を向かせてくれた。
「あの時、以来だな。 お前と、こうしてまた夕陽を見るのも」
覚えてる。
そう……前回は、ホテルのベランダで高橋さんと一緒に夕陽が沈むまで見ていたんだった。
ヒッ!
いきなり、高橋さんが後ろから私を抱きしめた。
「心配してないわけないだろ?」
エッ……。
「本なんか読んでたって、ちっとも頭に入っていかなかったんだ」
「嘘……」
高橋さんが、私の左耳元に顔を近づけた。
「お前が心配だったから、捜しに行こうかとも考えた。 だが、俺が動いちゃったらますます会えなくなるだろ? だから俺は動かなかったし、動けなかった。 でも、きっとお前は帰って来ると信じてたから。 必ず、俺の元に戻って来るとな」
「高橋さん」
夕陽が、どんどん沈んでいく。
夕陽に照らされて眩しいので目を細めると、自然にまた涙が流れた。
久しぶりに見るNew Yorkの夕陽は、感慨もまたひとしおで……。
私だけじゃなかったんだ
高橋さんも、心配してくれていた。
でも、動くに動けなかったから。 だから、ジッとあそこで待っていてくれた。
私が、戻って来ると信じて……。
高橋さんが私の両肩を持って、自分の方に向けた。
背を向けた私の後ろから射し込む夕陽に照らされた高橋さんの髪がオレンジ色に輝き、一段と彫りが深く妖艶に見える。