そういう問題?
「そういう問題なんですか? もし、私が高橋さんの立場だったら呼び出ししてもらうとか、トイレに行ってみるとか、心配で居ても立ってもいられないのに。 高橋さんは、私のことなんて……私のことよりも、読書の方が大事だったから気にならなかったんですか?」
もう、情けなくなってきた。
何で……どうして、捜そうともしてくれなかったんだろう?
てっきり、高橋さんが心配しまくって、焦って私を捜しまわってくれているんじゃないかと思っていたのに。
「鼻の下が、道」
はぁ?
な、何? 
『鼻の下が、道』 って……。
「からかわないで下さい!」
何で、こんな時にわけの分からないことを言っているのよ。
「鼻の下に、口があるだろ? 分からなかったら、口を開けば誰かに教えて貰える。 だから、鼻の下が、道。 小さい頃、お袋によく言われた」
そ、そんなこと。 今、いきなり言われても……。
「私だって……必死にパンフレットの地図を見て、分からないなりに頑張って、それで……」
悔しいのか、哀しいのか、分からないけれど、戻って来られて安堵した気持ちとともに涙が頬を伝っていた。
もう、高橋さんの感覚がよく分からない。 
「だから、こうやって戻って来られたんだろ?」
高橋さんは、私が辛かったこの1時間余りのことなんて、まるで分かっていないみたい。
「高橋さんは、私の気持ちなんてちっとも分かってくれていない。 ヒクッ……ヒクッ……」
大きな駐車場の車の横で、泣き出してしまった。
日曜日だったが、これだけの広さなので、周りに殆ど人が居なかったことが幸いだった。
高橋さんが、車の鍵を手に持っている音が聞こえる。
「後ろ」
エッ……。
高橋さんを見上げると、左手に持っている車の鍵で私の後ろを指している。
「後ろ、見てごらん」
な、何?