そして、高橋さんは私の手を握ると足早に歩き出した。
「ちょ、ちょっと、高橋さん。 待って下さい」
「いいから」
多分、駐車場に向かおうとしているのだろう。 
また迷子になっても困るので、仕方なくそれに従っていたが、歩いている途中も沸々と怒りと悔しさがこみ上げて来て、高橋さんに握られていない方の左手で、ずっと拳を握りしめていた。
駐車場に着いて、高橋さんがトランクに荷物を積んでいる間も怒りはおさまらず、横で憮然とした態度でその動作を見つめていたが、でももう我慢の限界だった。
迷子になってしまい、何処に自分が居るのか分からなくなってしまった原因は自分にもある。 でも、高橋さんが心配しているから早く戻らないといけないという一心で、焦って必死に戻ろうと頑張って戻ってきたのに。 
それなのに……。
「何で……何で、本なんか読んでいられたんですか?
「……」
高橋さんはトランクに荷物を入れているからか、気のない返事だ。
「だいたい、1時間近くも私が帰って来なくて、心配じゃなかったんですか?」
「何を怒っているんだ?」
『何を怒っているんだ』 って、呆れちゃう。
「信じられない……」
呆れて、呟くように言葉を発したが、その声は高橋さんに聞こえなかったのか、返事がなかった。
しかし、ちょうど高橋さんがトランクの扉を閉めて屈んでいた体勢を元に戻したので、ここぞとばかりに高橋さんを睨みつけた。
「俺があの場所を動いたら、もっと分からなくなっただろう?」