「ベーコンキッシュ、食べる?」
あっ……。
高橋さんも、覚えていたの?
「はい。 食べたいです」
「じゃあ、帰りに寄って行こう」
「あの……その前に私、トイレに行きたいんですけど」
ふと、高橋さんがキョロキョロ上を見ながら一点に視線がとまった。
私も一緒に見ると 「Rest room」 の文字。
「じゃあ、行って来ます」
「1人で、大丈夫か?」
「はい」
看板の指示通りに、歩いて行けばいいだけだもの。
「じゃあ、俺はこの辺で待ってるから」
「はい。 すみません」
日曜日ということもあって、結構人が出ていてトイレも混んでいたので、だいぶ時間が掛かってしまった。 
急いで来た道を戻っていると、大きな音がする楽器の演奏が聞こえてきた。
高橋さんが待っていてくれる場所に戻るには、目の前のこのメインストリートを横切りたかったのだが、ちょうどその演奏隊が通り過ぎるところだったので、沢山の人で溢れてかえっていた。
もう、ちょっとなのに……。
仕方なく、演奏隊をやり過ごしてからメインストリートを渡ろうと思ったが、人波に押されて背の低い私はこのアメリカ社会ではまるで子供の身長で、後ろに下がろうにも周りの人に遮られて人波に押されてしまい、気づくと演奏隊と一緒にだいぶ前方まで来てしまっていた。
さっきの場所まで、早く戻らなきゃ。
やっとの思いで人の流れに逆らいながら、ようやく壁際に寄って立ち止まることが出来た。
その後、演奏隊が行ってしまったので、空いたメインストリートを渡って高橋さんが待っている方向を見た。
確か、あの辺りだったはず。
あれ?
さっきの場所と違う。
エッ……。
此処……どこ?
振り返った先は、先ほどのメインストリートではなく、フードコートのはずれで、そこは高橋さんと食事した場所とも違っていた。