背中が、ゾクッとした。
高橋さんの冷淡な言い方には、日頃見られない怒りが込められているようだった。
「お客様。 その、メモというのは?」
阿部さんが、高橋さんに例のコースターのことを聞いている。
「ご本人に直接お返ししても良かったのですが、上司の方からお返しして頂くのが良いかと判断したので、先ほどご本人にはその旨、了解を得てあります」
嘘!
そこまでしちゃったの? 
高橋さん。
やっぱり、高橋さん。
貴方を、私は敵にまわしたくないです。
あっ……だからなんだ。
当人同士のことだから、他人が読んでいい気はしない。 だけど、今回みたいになってしまったら……。 それで、あのCAに高橋さんは言いに行っていたの?
前回、私がずっと泣いていたことも覚えていてくれた。
あの時は、私が誤解していたこともあったのに。 私の為に……それなら、最初からちゃんと説明してくれればいいのに。
いつも、そう。
言葉が足りないのは……ね。
でも、余計なことを言わないし、言ってくれないのもある意味高橋さんの優しさで、私はそんな高橋さんをもっと信じてあげなければいけないんだ。
信じていれば、言葉が足りなくても、言葉にしてくれなくても、何時も安心出来るはず。 こればっかりは、高橋さんの性格だから。
きっと、そんな性格も含めて好きになってしまったんだもの。
「確かに、お預かり致します。 本当に、申し訳ございませんでした。 お食事中、失礼致しました」
高橋さんとの会話が終わったみたいで、阿部さんは戻っていった。
「高橋さん……」
やっぱり、声を発した途端、涙声になってしまった。
「何で、お前が泣くんだよ。 馬鹿だな」
高橋さんが、置いてあったナプキンで涙を拭ってくれた。
前回のことを覚えていて、そこまで考えていてくれたなんて。 それだけで、もう十分だった。
「嫌なことを思い出させて、悪かった」
チュッ。
ひゃぁー!
いきなり、額にキスをされた。
「た、高橋さん。 い、いきなり、こんなところで何してるんですか!」
絶対、今、顔真っ赤だよ。
「ん? こっちの方が良かったか? それこそ、良い思い出にもなるよな?」
左手の人差し指で、高橋さんが私の唇を2度押した。