案の定、高橋さんに不審に思われてしまった。
「あの……そのコースターの裏側に、何が書いてあるんですか?」
すると、それまで私の方を見ていた高橋さんが、無表情のまま正面に向き直ってしまった。
エッ……。
思い切って聞いたけど、何かまずいことでも言っちゃったのかな?
「お前は、知らなくてもいい世界だ」
「そんな……」
何で、そうやって子供扱いばかりされるんだろう。
「どうしてですか? 何で、そうやっていつも子供扱いするんですか?」
ああ……。
もう、こんなことで争いたくないのに。
何で、いつも高橋さんは、こうも秘密主義なの?
「はぁ……」
高橋さんが腕を組みながら、溜息をついた。
「そこまで俺のテリトリーに、立ち入らないでくれないか?」
エッ……。
高橋さんは前を向いたままビールを飲むと、問題のコースターを胸ポケットに入れてしまった。
私……高橋さんのテリトリーに、踏み込んだの?
だって、気になるんだもの。
でも、これは束縛とかになっちゃうのかな?
立ち入り過ぎなの?
分からない。
「だって……気になるんです。だから、私……」
すると、高橋さんはシートベルトを外し、席を立って何処かに行ってしまった。
トイレかな?
だけど、それにしては長かった
それとも、ラウンジに行ったの?
ラウンジに行ったんだとしたら、もしかして私と一緒に居たくなかったから?
何故なの?
どうして? 
高橋さん。
高橋さんを、怒らせるようなことを言ってしまったの? 
だとしたら、それはやはりCAのコースターの件を聞いてしまったから?
でも、もしそのことだとしたら、あれほどまで高橋さんが怒るだろうか?
こう言っては何だけど、それほど聞かれたら怒るようなことだったのかな?
それとも、もっと違うことで……。
悶々とした気持ちと泣きそうな心のまま、せっかく運ばれてきたグアバジュースにも手をつけずに高橋さんが早く戻ってきて欲しいと願っていたが、暫く高橋さんが席に戻って来ることはなかった。
何度も時計を見ていたが、時間の経つのが遅く感じられ、やきもきしながら待っていると、やっと高橋さんが戻ってきた。
「お待たせ」
エッ……。
口調も態度もいつもと変わらず、至って普通。
先ほどの何だか冷たい感じとは、打って変わっていた。
「あの……大丈夫ですか?」
気になっていたのと訳が分からないのとで、間抜けな質問をしてしまった。
「ん? 何がだ?」
はぁ?
何か、酷くない?
散々、やきもきさせといて!