高橋さんは、右手に持っていたチケットを挟んであるパスポートで、私の頭を軽く叩いた。
「高橋さん……」
座席に着いて周りを見渡すと、殆どの人がビジネスマンという感じで、先ほどの女性達とは離れたみたいだったので、少しホッとした。
飛行機が離陸して暫くするとシートベルトサインが消え、CAがおしぼりとメニューを持ってきた。
「俺は、ビールで。 何にする?」
「私は、グアバジュースをお願いします」
エヘッ。
前回、学習したもんね。
ちゃんと、迷わずに頼めたから良かった。
「お前。グアバジュース、好きだよなぁ」
「だって、それしか思い浮かばないし、知らないんです」
他の飲み物はよく知らないし、グアバジュースが気に入っていたからいいんだけど。
「じゃあ、今度はオリジナルジュースにしてみたらどうだ?」
オリジナルジュース?
「今は……キウイだな。 キウイが嫌いじゃなかったら、キウイタイムにしてごらん。 あっさりしていて、結構上手いから」
キウイタイム?
何だか、美味しそう。
「じゃあ、そのキウイタイムとグアバジュースと交互に頼んでみますね」
「フッ……まるで、ガキだな」
うっ。
でも、いいの。
馬鹿にされても、今は高橋さんとこうやって一緒に居られる方が楽しいから。
「お待たせ致しました。 グアバジュースでございます」
「ありがとうございます」
まず奥の私の席に、コースターを敷いてグラスを置いてくれた。
「ビールでございます」
高橋さんの席に置かれるビールを、何気なく見ていると……。
エッ……。
今、このCA、一瞬コースターを裏返しにしていた。
その裏に、何か書いてあったような?
もしかして……。
また、高橋さんへのお誘い?
前回も同じようなことがあって、あの時は前から知り合いだった人で私が誤解して……。 高橋さんと、喧嘩になってしまったんだった。
「どうも」
でも、当の高橋さんは全くそんなことに気づいていないのか。 ううん、絶対気づいているはず。
それなのに、至って普通にしているのは、何故?
グラスをその問題のコースターの上にのせて、缶ビールをコースターの横に置くとCAは次のシートへと去っていった。
気になる……。
何が、書いてあるの?
そのコースターの裏に、いったいどんなことが書いてあるんだろう。
気になって、気になって、そこばかりを直視してしまう。
「何?」