起き上がらせてくれた高橋さんが私を引き寄せると、耳元でそう囁いた。
「な、何、言ってるんですか。 さ、さあ、早く食べましょう」
焦りまくりながら、必死に平静を装った。
「陽子ちゃぁん。 顔、真っ赤」
高橋さんが、わざと煽るように言う。
「そ、そんなことないですよ。 からかわないで下さい」
つい、ムキになってしまう
「まぁた、エロいことでも今考えてたんじゃないのかぁ? 俺は、ただ明日からの出張は大変だぞって言っただけなのに」
嘘……。
そ、その意味深に、悪戯っぽく笑うのはやめて欲しい。
「もぉ、高橋さん。 嫌い」
「ハハッ……出た! ウシ」
「知らない! もぉ」
そんな楽しい朝を過ごしながら、明日からの出張に半分は胸をときめかせ、後の半分は少し不安になりながらも出発当日を迎えた。
だが……
出張当日は、朝から大変だった。
高橋さんが、あんなこというから……。 
急遽、パッキングしてあったバゲージをひっくり返して再度下着のチェック。
もう、どうしよう。
こんなこと、まゆみに相談出来ないし……でも、やっぱり一応行ってこよう。
そう決心して、朝一デパートの下着売り場に来たまでは良かったんだけど……。
元々、結構下着は好きで集めたりもしていたが、いざそんなことになるとどういうのがいいのか皆目見当もつかない。
まさか、店員さんに聞くわけにもいかないし、自分の好みで適当に何枚か買ってはみたものの、バゲージに詰めてみてあれもこれも持って行こうとしていたら今度は全部入らなくなってしまった。
ARIKIパンツは2本は必須じゃない。それに合わせたジャケットと……あとは下着が問題なんだよね。どうしよう。全部持って行くわけにはいかないし……。
結局、1番最初にパッキングしたものをそのまま持って行くことにして、今日買って来たものは置いて行くことにした。
本当に、今日から出掛けるというのに朝からデパートに何しに行ったんだか。 疲れと、散財しに行っただけじゃない。
あぁあ、後悔。
それでも、遊びにいくんじゃないことは分かっているけれど、どうしてもこれから2週間ちょっと高橋さんとずっと毎日一緒に居られると思うと、出張なのに浮かれ気分になってしまい、高橋さんのお迎えを楽しみに待っていた。
前回の出張の時と同じように、高橋さんの車に乗って空港まで行き、出発の手続きをカウンターで行う。
そう言えば、前回はもうここからパニックだった。
ファーストとエコノミーとではカウンターが違うのに、高橋さんはそのまま手続きしちゃって大慌てで引き留めた記憶が蘇って来る。
きっと今回の出張は、そんな前回の記憶を辿っていくものになるのかな?
漠然と、そんな思い出探しの出張になることもいいかもしれない等と考えていた。