田崎さんは視線を彷徨わせ、考える素ぶりを見せてから「そういえば……」と口を開く。

「近々、私の誕生日なんです。その話を彼にしてから、避けられるようになった気が……します」

 私はその話を聞いて、ますますわからなくなり首を傾げた。
 好きな人の誕生日を知って、なんで避けるようになったんだろうか?
 うーんと私が(うな)っていれば、田崎さんは突然顔を上げて店主さんに向き直った。

「すみません! やっぱり私、出直します。こんな話、相談するよう事でもな……」
「いや、待ちなさい」
「え?」

 帰ろうとする田崎さんを店主さんは引き止める。

「あなたの恋の相談、しかと聞き届けた」
「そ、それはどういうことでしょうか?」
「──あぁ、来たようだ。2人はこの部屋で待っていてくれ」

 そう言って部屋を出た店主さん。
 部屋に取り残された田崎さんと私。

「…………」
「…………」

 耳が痛くなるような静寂が室内を闊歩(かっぽ)する。
 一体、今日会ったばかりの人と何を話せば良いのか。
 今ほど、自分のコミュニティ能力の低さを呪った日はない……はずだ。

「……あの、あなたもここで働いているんですか?」
「へっ? いえいえ! 違います!」

 一人で百面相をしていた私を気遣ってくれたのか、田崎さんが会話の種をまいてくれた。
 私はブンブンと手と首を振り否定する。そんな私がおかしかったのか、ふふと笑う田崎さん。

「私もたまたま、さっきこのお店に入ったというか、なりゆきでっ。……今更ですけど、私もお話を聞いてしまって大丈夫でしたか?」

 相談所とは無関係である私が、なりゆきとは言え同席してしまったのだ。
 プライバシーの侵害だと怒られてもいいはずなのに、田崎さんは柔らかな笑みを浮かべ「誰かに聞いてもらいたかったんです。だから、ありがとうございます」と、逆に感謝されてしまった。
 なんて良い人なんだろう。
 自分がちっぽけな人間に思えてならない。

「あ、そうだ。あなたも私と同じ高校の……」

 田崎さんがそう言いかけた時、ガチャリと部屋の扉が開き店主さんが帰ってきた。