◯誰もいない廊下

 央士は誰もいない廊下で立ち止まる。勢いで引いていた陽夏の手は離さない。


陽夏「……央士くん?徳川くんの前で、王子モード忘れるなんてどうしたの?」

央士「……」

陽夏「まさか、徳川くんにヤキモチ妬いてたりして?……なーんてね、そんなはずないよね。冗談だよ?」

央士「そうだよ」

陽夏「え」

央士「ヤキモチ妬いてたんだよ。悪りいかよ」

 素直に認める央士に陽夏は驚く。

陽夏「え、なっ、どうしたの?央士くんらしくない……」

央士「お前のせいだよ……陽夏が他の男と話すの嫌なんだよ」

 ストレートな央士の言葉に、ドクンと心臓が跳ねる。
 真っすぐな瞳に思わず釘付けになる。

央士「『俺のこと好きになるはずない』って言ってたよな……どうしたら俺のこと好きになってくれんの?」

陽夏「……え、っと」

陽夏(央士くんの本性は逆玉狙いのクズで……絶対好きになんてなるはずないって思ってた。なのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう)

 ドキドキが止まるどころか、加速していた。

央士「俺じゃ、ダメなの?」

陽夏「……」

央士「俺のこと、好きになってよ」

陽夏「……」


 いきなり素直な態度になった央士の言葉に戸惑いと嬉しさが交差する。
 返事を答えようと、陽夏はゆっくり口を開いた。