〇誰もこない校舎裏(桜小路に無理やり連行される)


 強く捕まれていた腕が解放されたと思うと、鋭い目つきで桜小路に睨まれている。



桜小路「あのさ、央士くんはみんなの王子なわけ。あんたみたいな四軍女子が仲良くしていいわけないのよ」

 普段はお嬢様で丁寧口調の桜小路からは想像できないくらい、荒々しい言葉遣いで話す。

陽夏「べ、別に仲良くしてるわけじゃ……」

桜小路「渡されたお弁当はなに?どういう関係なのよ! なんで、央士くんがあんたなんかにお弁当渡すのよ?」

陽夏「……えっと、それは……」

陽夏(央士くんが家政婦だから。なんて言えないし……)

桜小路「はあ、うっざ、何その顔」

 恐怖で縮こまる陽夏に、桜小路はため息を吐き捨てる。

陽夏(こういう時って、ドラマとかではヒーローが助けに来てくれるよね……誰か助けにきてくれたりするんじゃ……)

 陽夏は助けを求めて辺りをきょろきょろと見回すが、人の気配がない。

陽夏(はあ、あんな都合のいいことはドラマの世界だけだよね)

 陽夏は誰も助けてはくれない状況に落胆する。



桜小路「とりあえず、央士くんに近づかないって、ここで言いなさいよ」

陽夏「央士くんには……」

陽夏(あれ、言えばこの地獄が終わるはずなのに、言葉が続かない)
 なぜか心が拒否して、言葉が出てこなかった。

陽夏「ごめん、桜小路さん、約束はできない」

桜小路「……なっ、」

陽夏「その約束はできない!」

陽夏(……だって、央士くんは我が家専属家政婦なんだもん)

桜小路「何言ってるか分かってるの?!この私の言うことが聞けないなんて……!」

 桜小路は怒鳴り声と共に右手を大きく振りかざした。

陽夏(叩かれる……っ)
 陽夏は恐怖でぎゅっと目を瞑った。