◯翌日 学園校内(朝・登校時間)


 
生徒「おはよー」
生徒「おはよう」

 生徒たちの挨拶の声が飛び交う。
 平穏な学園生活を送りたい陽夏は、関わらないように央士を避けていた。


央士「百瀬さーん!これお弁当」

 陽夏は分かりやすく避けているので、央士も分かっているはずなのに、集まる人たちをかき分けて陽夏のもとにやってくる。


 辺りがざわつく。学校中の生徒の視線が集中する。


陽夏(お弁当なんて頼んでないのに……こんなに人がたくさんいるところで……)

 陽夏はいつも学食で昼食を食べている。
 
 この学園の食堂は大きさも美味しさも、都内のレストラン並みの規模だった。白蘭学園の生徒のほとんどが学食を使っている。
 
 それなのに、お弁当を渡してくる央士の行動の意味が理解できなくて陽夏はあたふたする。


 ――その理由が判明する。
 そんな陽夏を見て、央士は嬉しそうに悪戯に笑った。

陽夏(こ、こいつ、私が困るのを知ってて……わざとだな?)

 学園で陽夏に話しかけると、嫌そうな顔を露骨に出すので、央士はわざと話しかけて、表情がコロコロ変わる陽夏を見て楽しんでいる。


◯教室(朝・ホームルーム前)


 全校生徒からの好奇な視線を受けながら、陽夏は教室の自分の席に座る。



桜小路「……百瀬さん、ちょっとよろしい?」

 話しかけてきたのは一軍女子の桜小路綾乃。
 手入れの行き届いた綺麗なロングヘアに目鼻立ちがはっきりとした美人。

 桜小路家は誰もが知っている八大財閥。桜小路は財閥令嬢なのだ。この学園の地位も飛び抜けている。逆らうものはいない。同じクラスでも陽夏は、ほとんど話をしたことがない。


陽夏(桜小路さんが、私に話?!……嫌な予感しかしない)

 桜小路が央士のことを好きだと、クラスメイトに教えてもらったことを思い出す陽夏。


陽夏(絶対、央士くん関係だ……)

陽夏「……ちょ、ちょっと、よろしくないですっ!……では」

 危険を察知した陽夏はその場を去ろうとする。
 しかし、桜小路に腕をつかんで阻止される。
 陽夏の腕を掴む握力が驚くほど強い。


桜小路「顔貸せって言ってんだよ」


 陽夏にしか聞こえない声のボリュームで呟く。

陽夏(ひぃー!怖すぎる)

 桜小路は顔をしかめたまま、掴んだ陽夏の腕を引っ張り、無理やり連行する。


陽夏(……どうしよう!この状況、絶対よろしくないー!))