〇リビング

 広いリビングには大きな高級ダイニングテーブル、高級ソファが配置されている。

 重苦しい空気の中、眉間に皺を寄せた父が口を開く。

父「……詳しく説明してもらおうか」

 父の声からは殺気が漏れる。
 この状況、穏やかにいれるはずがなかった。

 仕事から帰ってきたら、家に娘が男を連れ込んでいた。その男が「お付き合いさせてもらっています」と宣言したのだから、殺気も漏れてしまう。


陽夏(央士くんの言ってることは、めちゃくちゃ嘘だ、なんなら、真実はそこに一切ない)


 ――しばらく時がたつ。



〇リビング(――10分後)


父「そうか、そうか、央士くんは立派だなあ!」

 殺気が漏れ出していたとは人物とは思えないほど、父は笑顔を浮かべて、央士と軽やかに話している。

央士「いや、いや、凄いのはパパさんっすよ?いつも陽夏さんから話は聞いていて、パパさんほど尊敬できる人はいないっす」

陽夏(いや、央士くんに、パパのこと話したことなんてないじゃん……)

 でまかせばかり口から吐き続ける央士に、陽夏は呆れる。


父「はははっ!」
央士「あははははは」


 気づけば陽夏以外の3人は打ち解けて笑い合っている。

陽夏(……パパが飼いならされてしまった。央士くんは……天性の人たらしだな)

 話し込んだ数分で喋りの上手い央士に、父はまんまと乗せられている。


パパ「央士くんが彼氏なら、問題ないな」

陽夏「ちょ……と!パパ?!」

パパ「苦労を知らないお坊ちゃまでは、陽夏を幸せにできるとは思えないんだよ。その点、央士くんは学業と並行してアルバイトをして家計を助けていてすごいじゃないか。家政婦のバイトで培った家事が得意とは立派だよ」



陽夏「そ、そんな!……央士くんの言ってることは……」

 真実を伝えようとしたとき、央士に後ろから腕を掴まれた。

 振り向くと睨みつける央士。
 「それ以上言うな」と伝えてくるようだ。


陽夏「……っ、央士くん、ちょっと……」


陽夏は央士の腕を引っ張り、リビングを出ていく。