◯学園正面前付近(下校時間・夕方)
正面玄門付近には、綺麗に手入れされた草木が生い茂り、風に吹かれてなびいている。
生徒「きゃあーーー!!」
生徒「きゃあ!王子くんだあ!今日もかっこいい!」
生徒「今、こっち見た?かっこいい!」
陽夏は学校正面玄関辺りを歩いていた。
辺りが騒がしくなった理由は、考えなくても分かる。
陽夏(この白蘭学園で王子くんと呼ばれ、人気者の彼が近くにいるのだろう……)
◯状況説明
百瀬 陽夏の通っている白蘭学園は超がつく程のお嬢様学校。社長令嬢、資産家、財閥の子孫など、富裕層と呼ばれる家庭の子ばかりが在学している。
世間からは確実にお金がある、一流のお金持ちばかりが通う学園と認識されている。
陽夏の父は全国規模に展開する飲食店を経営している。毎年の海外旅行に、家にはお手伝いさんが常在。何不自由なく暮らしている。
一般的に見たらお金持ちの分類に入る陽夏でも白蘭学園では下位の方だった。百瀬家よりもランクが上のお金持ちがたくさん在学しているのだ。
この学校は、親の職業や家柄が序列を作っている。陽夏の立場を表すなら四軍といったところだ。
◯場面転換 正門前(下校時間・夕方)
陽夏の目の前を颯爽と通りすぎていくのは、文句のつけどころのない容姿端麗、長身、成績優秀。
名前は星乃 央士
通称 王子くん
名前負けしない彼は性格も穏やかで、ただ歩くだけでみんなから見つめられて、その場にいるだけで歓声を受ける。
女子生徒「お、おおおおっ王子くん、お車では帰らないんですか?」
央士「……運動不足にならないように、歩いて帰るんだ」
爽やかなスマイルの余韻を残して歩いていく。爽やかスマイルを向けられた女子生徒は目がハートになっている。
そんな央士を陽夏は遠目から見ていた。
陽夏(学園一の人気者でも、歩いて帰るんだ……。本当、王子くんと呼ばれるのに相応しい、絵に描いたような好青年だなあ)
央士は同じクラスでも、雲の上の存在で陽夏は喋ったことさえなかった。話したことはないけれど、好青年でまさに王子と呼ばれるのに相応しい人物だった。
陽夏(世の中には、お金持ちでも、こんなに綺麗なまま育つ人もいるんだなあ。白蘭学園では下位の私でも運転手が送り迎えするのに……)
校門前に高級車が連なっている。
一軍で人気者の央士が健康のために送迎者を使わずに自分の足で帰る。そんな央士の振る舞いに感心しながら、陽夏は送迎車に乗り込む。
運転手「お帰りなさいませ。お嬢様」
陽夏「ただいまー、家まで直行でお願い」
運転手「かしこまりました」
陽夏が乗った送迎車は歩いて帰っている央士の横を通り過ぎる。
車の窓から、歩いているだけで様になる央士の姿を目で追った。
陽夏(……本当に歩いて帰ってる。すごいなあ)
この時の陽夏は、好青年の央士に感心するばかりで、彼の本性をまだ知らない。