みんなには幼馴染っている?
みんなの幼馴染は一体どんな子なの?
同性?異性?
同い年?年下?年上?
私の幼馴染は異性で一つ年下の男の子なの!
"ピンポーン"
家のチャイムが鳴った。どうやら、彼がうちに来たみたい。急いで鞄を手に持って、玄関の扉を開けた。
太陽の光が私の目を突き刺すように、照らし出してくるはずだったのに...私の目に光は届かない。
「遅い・・・」
「ごめんって!」
彼の大きな体が、太陽から私のことを遮ってくれているらしい。でも、彼の顔色は太陽のような明るい笑顔とは真反対の顰めっ面。
「ママ〜、学校に行ってくるね!」
エプロンを腰に巻いたままの母親が玄関まで慌てて出てくる。私の自慢のママだ。若い時に私を産んだらしく、それ以来女手一つで私のことを育ててきてくれた大好きなママ。
ちなみに、父のことはよくわからない。ママの話によると、私が生まれて二年がたったある日、忽然と姿を消したらしい。
父がいないことに私は不便を感じたことがない。それくらい、ママが私のことを愛し、大切に育ててくれたから。
「気をつけるのよ、二人とも。隼君、莉音のことよろしくね」
幼馴染の吉田隼とは、幼稚園からの幼馴染で親同士の仲も非常に良い。小さい頃は私が彼のお姉ちゃん代わりだったのに、いつの間にかすっかり私の方が年下みたいに扱われている。
正直、嫌ではないが時々『私の方が一つ年上なんだぞ!』と言いたくもなってしまう。ま、私がボケーっとしているのが悪いのだが...ちゃんと自覚はしているつもりではいる。
それに、隼は私の初恋の相手でもあり、その恋は現在進行形でもある。
「はい。任しといてください!」
ママに向ける隼の笑った顔が実に眩しい。私にもその顔を向けてほしいと何度思ったことか...
無理もない。彼は学校でもイケメンと噂になる程、顔が整いすぎているのだ。フワッとした茶色い髪のマッシュヘアにキリッとした眉の下にはぱっちり二重と非の打ち所がない。
おまけに182㎝の高身長に加え、成績優秀、スポーツ万能と完璧人間すぎて、時々私が隣を歩いても良いのかと不安にもなってくる。
街を歩いているだけで、通り過ぎる人が思わず二度見をしてしまうくらい、隼は人の目を惹いてしまうしまうのだ。
私が隣を歩いていても、明らかに可愛いと言われて育ってきたであろう女の子が、隼に言いよる場面など数えきれないほど。
肝心の隼はというと、話しかけてくる女の子をフル無視。どんなに可愛い子だろうが、割と有名なモデルだろうとそれは変わらない。
街で有名な雑誌モデルに声をかけられているのを隣で見た時は、心臓が飛び出るかと思った。私がよく買っている雑誌の表紙にもなるような人だったから。
それをこの隣の男と言ったら...『興味ないんで』の一言。これには流石の私も、冷や汗を尋常じゃないほどかいたのを覚えている。
モデルさんがその後どうなったかは、きっと想像がつくだろう。振られることを予期していなかったらしく、顔を茹蛸のようにして去って行ったんだ。今思えばあれは衝撃的な出来事だった。
それくらい今、私の隣にいる人は途轍もないオーラを放っているのだ。あまりの私との違いに、一般人と芸能人が歩っているような感覚。
それに比べ、私は背中まで長く伸びる黒髪が唯一のトレードマーク。それ以外は、特にそこら辺にいる女子高校生と変わりはない。
なんなら、私より可愛い子の方が溢れかえっているかもしれない。
もし、私が隼の彼女にでもなったら...あぁやめた!考えても仕方がない。
「・・・いくぞ」
「はーい」
玄関が閉じてママが見えなくなった途端に、貼り付けられていた笑顔は一瞬で消え、いつも通りの素っ気ない表情に変貌する。
仲が悪いように見えるかもしれないが、これが私たちの関係性。いつからこうなってしまったのかは覚えてはいない。
確か中学生頃には、なっていた気はする。そっけなくても、毎朝わざわざ遠回りをして私を迎えにきてくれるのは、彼なりの優しさなのだろう。
昨晩は雨でも降ったのだろうか。アスファルトの上には幾つのも水溜りができている。キラキラと光る水溜りが、空の様子を反射していて綺麗に見える。
立ち止まって水溜りを見つめる。やはり、水溜りに映っているのは反転された私たちが住んでいる世界。
「綺麗・・・」
「おい、さっさと・・・」
「お姉ちゃん、何見てるの?」
気付けば私は、小学生の集団に囲まれていた。小学生の目には、期待の眼差しなのか輝いているようにも見える。
水溜りをしゃがんで見ている人がいたら、誰だって気になるだろう。高校生の私でも『何してるんだろう』と気になってしまうのだから。
「んーとね、水溜りに映っている私たちの世界を見ていたの」
「何それ〜!」
賑やかになる小学生たち。きっとバカにされているに違いないが、これを見たらこの子たちも黙ることだろう。
「ほら、水溜りの中見てごらん」
小さな水溜りの周りを五、六人の男女が取り囲む。側から見たらおかしな光景だが、小学生たちも興味津々のようでみんなして水溜りに顔を近づける。
「わぁ〜、綺麗!お姉ちゃん、すごい綺麗に見えるよ」
「そうでしょ〜!」
にんまりと小学生に対して、ドヤ顔をする私。それを冷めた目で眺めている隼。
「あ、昨日のYouTube見た?」
「見た見た!」
すぐに水溜りへの興味を失って、歩いていく小学生。当然だ、小学生にとっては綺麗なことよりも楽しいことの方が、彼らにとっては全てなのだから。
それに、最近の小学生の会話はYouTubeなのか。私が小学生の時は、前日のドラマや番組の話をしていたのに...たった数年の間でもこんなに環境は変わってしまうものなのか。
若者のテレビ離れの実態をまじまじと実感した気がする。
「おい、そろそろいくぞ・・・」
私たちが今、歩いている道は狭い住宅街の細い道。そのはずなのに、一向にスピードを緩めない車が奥からこちらへと向かってくるではないか。
車に轢かれないように、急いで壁へと近寄る。どんどんと迫ってくる鉄の塊。
"バシャン!"
車が私たちの横を通りすぎていくと同時に、アスファルトに溜まっていた水が弾き出される。勢いよく私の頭上へと降りかかってくる水溜りの水。
その降り注いでくる水が、スローモーションに見えてちょっと綺麗に思えてしまう。
"濡れる!"と思い、ぎゅっと目を瞑る。冷たい...あれ。濡れているはずなのに、全く冷たくないのはどうしてだろうか。
閉ざされた瞼をゆっくりと開くと、隼が後ろの壁に手を着いて私を守っていた。
正直、濡れたとかそういう問題ではない。隼との距離が絶妙に近くて心臓がバクバクしてしまう。
(こ、これはもしや・・・壁ドンなのでは)
少女漫画でよくある光景が、私の前に広がっているのだ。一乙女としてこの状況は、堪え難いシチュエーション。
お礼を言いたいのだが、身長差がかなりあるせいで彼の目を見るには見上げるしかない。それは、私にとってかなりハードだ。
胸の高揚感が全く収まらない。今までにも隼にドキッとしたことはあったが、これほど彼のことを男として意識したことはなかった。
単なる幼馴染程度にしか...それなのに、今は彼のことを一人の異性としか見ることができない。
早くこの状況を抜け出したい...でも、抜け出したくない。葛藤する時間さえもドキドキしていて楽しい。
意を決して、目を彼へと向ける。
"っっっっ!"
「大丈夫か?莉音」
彼の髪の毛の先端から、雫がポタポタと下に落ちていく。さっきの水をもろに頭から被ってしまったらしく、髪が濡れてしまっている。
妙に色っぽい...水に滴る良い男とはこういう人のことを言うのか。
「あ、うん。あ、ありがと!」
恥ずかしさのあまりテンパってしまう私。そんな私を彼は顔色一つ変えずに、私を見下ろしている。きっと、隼にとってこんなシチュエーションは数ある中の一つにすぎないのだろう。
この時、私は自分のことでいっぱいになり、彼の耳が赤く染まっていることに気が付かなかった。
みんなの幼馴染は一体どんな子なの?
同性?異性?
同い年?年下?年上?
私の幼馴染は異性で一つ年下の男の子なの!
"ピンポーン"
家のチャイムが鳴った。どうやら、彼がうちに来たみたい。急いで鞄を手に持って、玄関の扉を開けた。
太陽の光が私の目を突き刺すように、照らし出してくるはずだったのに...私の目に光は届かない。
「遅い・・・」
「ごめんって!」
彼の大きな体が、太陽から私のことを遮ってくれているらしい。でも、彼の顔色は太陽のような明るい笑顔とは真反対の顰めっ面。
「ママ〜、学校に行ってくるね!」
エプロンを腰に巻いたままの母親が玄関まで慌てて出てくる。私の自慢のママだ。若い時に私を産んだらしく、それ以来女手一つで私のことを育ててきてくれた大好きなママ。
ちなみに、父のことはよくわからない。ママの話によると、私が生まれて二年がたったある日、忽然と姿を消したらしい。
父がいないことに私は不便を感じたことがない。それくらい、ママが私のことを愛し、大切に育ててくれたから。
「気をつけるのよ、二人とも。隼君、莉音のことよろしくね」
幼馴染の吉田隼とは、幼稚園からの幼馴染で親同士の仲も非常に良い。小さい頃は私が彼のお姉ちゃん代わりだったのに、いつの間にかすっかり私の方が年下みたいに扱われている。
正直、嫌ではないが時々『私の方が一つ年上なんだぞ!』と言いたくもなってしまう。ま、私がボケーっとしているのが悪いのだが...ちゃんと自覚はしているつもりではいる。
それに、隼は私の初恋の相手でもあり、その恋は現在進行形でもある。
「はい。任しといてください!」
ママに向ける隼の笑った顔が実に眩しい。私にもその顔を向けてほしいと何度思ったことか...
無理もない。彼は学校でもイケメンと噂になる程、顔が整いすぎているのだ。フワッとした茶色い髪のマッシュヘアにキリッとした眉の下にはぱっちり二重と非の打ち所がない。
おまけに182㎝の高身長に加え、成績優秀、スポーツ万能と完璧人間すぎて、時々私が隣を歩いても良いのかと不安にもなってくる。
街を歩いているだけで、通り過ぎる人が思わず二度見をしてしまうくらい、隼は人の目を惹いてしまうしまうのだ。
私が隣を歩いていても、明らかに可愛いと言われて育ってきたであろう女の子が、隼に言いよる場面など数えきれないほど。
肝心の隼はというと、話しかけてくる女の子をフル無視。どんなに可愛い子だろうが、割と有名なモデルだろうとそれは変わらない。
街で有名な雑誌モデルに声をかけられているのを隣で見た時は、心臓が飛び出るかと思った。私がよく買っている雑誌の表紙にもなるような人だったから。
それをこの隣の男と言ったら...『興味ないんで』の一言。これには流石の私も、冷や汗を尋常じゃないほどかいたのを覚えている。
モデルさんがその後どうなったかは、きっと想像がつくだろう。振られることを予期していなかったらしく、顔を茹蛸のようにして去って行ったんだ。今思えばあれは衝撃的な出来事だった。
それくらい今、私の隣にいる人は途轍もないオーラを放っているのだ。あまりの私との違いに、一般人と芸能人が歩っているような感覚。
それに比べ、私は背中まで長く伸びる黒髪が唯一のトレードマーク。それ以外は、特にそこら辺にいる女子高校生と変わりはない。
なんなら、私より可愛い子の方が溢れかえっているかもしれない。
もし、私が隼の彼女にでもなったら...あぁやめた!考えても仕方がない。
「・・・いくぞ」
「はーい」
玄関が閉じてママが見えなくなった途端に、貼り付けられていた笑顔は一瞬で消え、いつも通りの素っ気ない表情に変貌する。
仲が悪いように見えるかもしれないが、これが私たちの関係性。いつからこうなってしまったのかは覚えてはいない。
確か中学生頃には、なっていた気はする。そっけなくても、毎朝わざわざ遠回りをして私を迎えにきてくれるのは、彼なりの優しさなのだろう。
昨晩は雨でも降ったのだろうか。アスファルトの上には幾つのも水溜りができている。キラキラと光る水溜りが、空の様子を反射していて綺麗に見える。
立ち止まって水溜りを見つめる。やはり、水溜りに映っているのは反転された私たちが住んでいる世界。
「綺麗・・・」
「おい、さっさと・・・」
「お姉ちゃん、何見てるの?」
気付けば私は、小学生の集団に囲まれていた。小学生の目には、期待の眼差しなのか輝いているようにも見える。
水溜りをしゃがんで見ている人がいたら、誰だって気になるだろう。高校生の私でも『何してるんだろう』と気になってしまうのだから。
「んーとね、水溜りに映っている私たちの世界を見ていたの」
「何それ〜!」
賑やかになる小学生たち。きっとバカにされているに違いないが、これを見たらこの子たちも黙ることだろう。
「ほら、水溜りの中見てごらん」
小さな水溜りの周りを五、六人の男女が取り囲む。側から見たらおかしな光景だが、小学生たちも興味津々のようでみんなして水溜りに顔を近づける。
「わぁ〜、綺麗!お姉ちゃん、すごい綺麗に見えるよ」
「そうでしょ〜!」
にんまりと小学生に対して、ドヤ顔をする私。それを冷めた目で眺めている隼。
「あ、昨日のYouTube見た?」
「見た見た!」
すぐに水溜りへの興味を失って、歩いていく小学生。当然だ、小学生にとっては綺麗なことよりも楽しいことの方が、彼らにとっては全てなのだから。
それに、最近の小学生の会話はYouTubeなのか。私が小学生の時は、前日のドラマや番組の話をしていたのに...たった数年の間でもこんなに環境は変わってしまうものなのか。
若者のテレビ離れの実態をまじまじと実感した気がする。
「おい、そろそろいくぞ・・・」
私たちが今、歩いている道は狭い住宅街の細い道。そのはずなのに、一向にスピードを緩めない車が奥からこちらへと向かってくるではないか。
車に轢かれないように、急いで壁へと近寄る。どんどんと迫ってくる鉄の塊。
"バシャン!"
車が私たちの横を通りすぎていくと同時に、アスファルトに溜まっていた水が弾き出される。勢いよく私の頭上へと降りかかってくる水溜りの水。
その降り注いでくる水が、スローモーションに見えてちょっと綺麗に思えてしまう。
"濡れる!"と思い、ぎゅっと目を瞑る。冷たい...あれ。濡れているはずなのに、全く冷たくないのはどうしてだろうか。
閉ざされた瞼をゆっくりと開くと、隼が後ろの壁に手を着いて私を守っていた。
正直、濡れたとかそういう問題ではない。隼との距離が絶妙に近くて心臓がバクバクしてしまう。
(こ、これはもしや・・・壁ドンなのでは)
少女漫画でよくある光景が、私の前に広がっているのだ。一乙女としてこの状況は、堪え難いシチュエーション。
お礼を言いたいのだが、身長差がかなりあるせいで彼の目を見るには見上げるしかない。それは、私にとってかなりハードだ。
胸の高揚感が全く収まらない。今までにも隼にドキッとしたことはあったが、これほど彼のことを男として意識したことはなかった。
単なる幼馴染程度にしか...それなのに、今は彼のことを一人の異性としか見ることができない。
早くこの状況を抜け出したい...でも、抜け出したくない。葛藤する時間さえもドキドキしていて楽しい。
意を決して、目を彼へと向ける。
"っっっっ!"
「大丈夫か?莉音」
彼の髪の毛の先端から、雫がポタポタと下に落ちていく。さっきの水をもろに頭から被ってしまったらしく、髪が濡れてしまっている。
妙に色っぽい...水に滴る良い男とはこういう人のことを言うのか。
「あ、うん。あ、ありがと!」
恥ずかしさのあまりテンパってしまう私。そんな私を彼は顔色一つ変えずに、私を見下ろしている。きっと、隼にとってこんなシチュエーションは数ある中の一つにすぎないのだろう。
この時、私は自分のことでいっぱいになり、彼の耳が赤く染まっていることに気が付かなかった。