二人は目を合わせることなく、手で会話していく。
 愛おしそうに絡められた右手と左手は、強く結ばれる。


 エリーヌはちらりとアンリの横顔を見ると、あまりの美しく綺麗な表情に心を奪われる。
 そして、さっと目を逸らした彼女は自分の足に視線を移しながら、消え入るような声で言った。

「……月が綺麗ですね」
「え?」
「い、いえ! なんでもありません! お酒つぎましょうか!!」
「あ、ああ」

 その意味をきっとアンリは気づかないだろうと、そう思いながら顔を赤くする。
 しかし、数日後に東国に興味を持ったアンリが調べている最中、秋も終わりを告げた頃にその言葉を知った。

 今度は彼からの「月が綺麗ですね」口撃を受けるのだが、「今日は月は出てません!!」と屋敷に響き渡ったらしい──