好きとようやくいってくれた彼が、ことあるごとに毎日毎日自分を「可愛い」と言ってくれる。
 やはり少しまだ慣れない、むずむずとした感覚が拭えずにエリーヌは照れ隠しのように「水」を勧めた。

「ア、アンリ様! これどうぞ!!」
「んっ!! ……ごほっ! にがっ!!」

 その反応にしまったとばかりに口に手を当ててあたふたする。
 エリーヌが渡したその「水」は彼女自身が用意しただんごに合う酒だったのだ。

「すみません! それお水じゃなくてお、お酒なんです!」
「酒!? これが!?」
「ええ、お米で作った東国のお酒で、そこの方々はこれで晩酌をするのだそうです」
「はあ……ワインみたいなものか。かなり度数ないか、これ」
「そうなんですか?」

 その瞬間アンリの脳内にいた悪魔が囁いた。

(これでエリーヌを酔わせれば、さらに可愛いエリーヌが……)

 そう考えた自分の邪な心にふるふると頭を振って拒否する。
 彼は必死に脳内で「悪」と闘っている。

「アンリ様?」
「いや、なんでもない。でもなんで東国の食べ物に飲み物なんだ?」