「ふええええん」

ぼんやりしていると、紅葉ちゃんが泣き出した。

「どしたの〜?」

楓さんが立ち上がってあやしても、ふえふえ泣いて泣き止まない。

「私が来て、びっくりしちゃったのかな?」

いないないばあとかして見せても、紅葉ちゃんは目をつぶっておててを握りしめて泣いているばかりだった。

「あんまり人見知りはしないんだけどな‥‥オムツはさっき変えたとこだし、お腹空いたのかな?」

ちらっと時計を見て当たりをつけたらしい楓さんは、また椅子に腰掛けた。

「ここであげちゃっていい?」

「もちろんです!」

「ありがとう」

私が応えると、楓さんはーーガブリと自分の指を自分で噛み切った。

「たんとお上がり〜」

血の滴る指を紅葉ちゃんの口に近づけると、紅葉ちゃんは泣き止んで大きな口をあけてかぷりとその指をくわえた。

お母さんの手に小さな手をそえてちゅうちゅう吸ってる姿は可愛いけど、初めてこの光景を見たときはなかなか衝撃だった。

人間の母乳も元を辿れば血液だって聞いたことあるけど、ダイレクトに血液だから。

はっ! もしかして僕の血を飲んでって言ってたの、紅葉ちゃんみたいにってこと?
妹扱いどころか、赤ちゃん扱い!?

「ゆっくり飲みなね〜」

私がショックを受けてると、楓さんは紅葉ちゃんの口元をガーゼでぬぐってあげていた。
飲みこぼしももちろん真っ赤。

なかなかスプラッターだなあって思う。

香澄くんに血を吸われてこんな風になったことないから上手に飲んでくれてるんだなって思うけど、香澄くんも小さいころはこんな風にポロポロこぼしてたのかなって思うとちょっと可愛い。

「紅葉、美味しい?」

小さくても立派な吸血鬼な紅葉ちゃんだけど、紅葉ちゃんのお父さんーー楓さんの旦那さんは人間だった。

物語の世界じゃ人間と吸血鬼のハーフは人間寄りでヴァンパイアハンターになるものらしいけど、実際は吸血鬼の血の方が強くて必ず吸血鬼として生まれてくるらしい。

もし私と香澄くんが結婚したら、私と香澄くんの子どもも吸血鬼かあって考えて、その考えに恥ずかしくなって振り払うようにぶんぶん頭をふる。

ちょっと冷静になろうと、ハーブティーに手を伸ばす。

そういえば、香澄くんや楓さんの歯って私と変わらない見た目なのに、よく血が吸えるなって思う。
私が楓さんみたいに自分の指を噛んでも、あんな風に血は出せないと思う。

吸血鬼って、いろいろ不思議。