「ごちそうさまでした」

私がまだ半分も食べ終わらないうちに、香澄くんは私より大きなお弁当箱を空っぽにしてしまった。

私の血が飲めない分、香澄くんも鉄分メニューで体調がちょっとはマシになったりするのかな。

「ごめんね、食べるの遅くて」

「いいよ、ゆっくりお食べ」

じっと待ってると私が焦っちゃうから、香澄くんはポケットから文庫本を読み始める。

軽く足を組んで文庫本を読んでいる姿は絵になる。
屋上に続く扉から差し込む光が、香澄くんの色の薄い髪をきらめかせる。

本当にカッコイイなとため息がもれて、見惚れてしまう。

「あっ、そうだ。この間借りた本、もうすぐ読み終わりそうだからまた続き貸してね」

香澄くんは小難しいミステリーとかが好きだけど、たまに同じ作者が書いてるからってファンタジーとかも読んでる。
そういう本は、私も借りて読んだりしていた。

「うん。じゃあ、明日持ってくるね」

約束を取り付けて、私は再びお弁当に向き合った。

本を読んでいるとはいえ待たせているんだから、ちょっとは急がないと。



「ごちそうさまでした! 今日も美味しかったです!」

「どういたしまして。薬はあるね?」

「うん」

私が痛み止めを飲む用の水まで用意してくれていたらしい。
香澄くんがペットボトルを渡してくれなかったら、水道水でのむつもりでした。
女子力なくてスミマセン。

「まだ時間あるね」

薬を飲んで人心地。
まだ午後の授業までまだ十五分ぐらいあった。

「少し休みな」

香澄くんが私の肩に腕を回して、そっと自分にもたれさせる。

香澄くんの胸に耳がふれて、香澄くんにも私と同じような鼓動がすることを知った。

薬が切れかけていてしんどかったこともあり、私はそのまま目を閉じた。

香澄くんの胸の音を聞きながら、うとうととする。
心地がいい。

いつもより、ごはんを食べるのが遅いことに気づいたんだろうな。
血の匂いだけじゃなくて、五感で私を気遣ってくれている。

どんな理由でも、私はそれが嬉しい。

私は香澄くんが好きだから。

ずっと家族みたいに育ってきたけど、私の好きは家族愛でも友情でもない。
血をあげてるって意味ではそうなのかもしれないけど、そうじゃない香澄くんのトクベツになりたかった。

香澄くんの冷たい手が私の髪にふれて、頭をポンポンよしよしされる。

私の胸はキュッとするけれどーーたぶん、世話の焼ける妹ぐらいにしか思われてないんだろうなぁ。