昨日の今日だから、香澄くんは私と一緒に帰ると言ってきかなかった。
今日は私が日直だったから、香澄くんは私を待ってくれていた。

香澄くんと手を繋いで、いつもより薄暗くなった駅前の広場をのんびり歩く。

「なんか近くでイベントあったのかな」

香澄くんの言葉に辺りを見渡すと、風船を持った子どもがちらほらいた。

「かわいいね」

私たちの前には、お母さんに手を引かれながらプカプカ浮かぶ風船に釘付けになってる女の子がいた。

何気ない話をしながらのんびり一緒に帰る。

こういう時間が結構好きだった。

「あ、危ない」

香澄くんがぽつりとつぶやいて、走り出した。

走り出した先には、あの女の子。

風船に釘付けになってる女の子は小さな段差につまずいてバランスを崩した。
隣にいたお母さんが支えたから女の子が転ぶのは防げたけど、女の子の手から風船の紐が離れてしまう。

女の子が絶望したような声が上がるのに合わせて、風船も空高く上がっていってしまう。

女の子のもとに走った香澄くんが踏み切った。

ふんわりと重力を感じさせない動きで香澄くんが飛び上がる。
猫みたいにしなやかな指先を伸ばして、軽々と風船を捕まえた。

女の子の悲鳴が歓声に変わる。

香澄くんが女の子に風船を手渡すと、お母さんがぺこぺこ頭を下げてお礼を言っている。
女の子はキラキラした目で香澄くんを見て「お兄ちゃんカッコいい」「スポーツ選手なの?」とか言っているのが聞こえた。

香澄くんはスポーツ選手なんかじゃない。
ただの帰宅部。
でも、そんな人間が出来るような動きじゃなかった。

香澄くんは吸血鬼。

なんでだろう、今が一番香澄くんが人間じゃないことを実感出来た気がする。

女の子もお母さんにうながされて香澄くんにお礼を言う。
バイバイと手を振る女の子を見送って、香澄くんが私の元に戻ってくる。

「どうしたの!?」

香澄くんの驚いた声に、私はようやく自分が泣いていたことに気がついた。