「オマエが香澄の女か」

放課後、日直の香澄くんを置いて一人で帰っていた私は、ヤンキーにからまれていた。

金髪のツンツンした頭に特攻服を着て、ポケットに両手を突っ込んで肩肘を張り、下から舐め上げるように睨まれる。
これが、ガンをつけられるってやつ?

「えっと‥‥もしかして、伊月くん?」

つい昨日、楓さんから名前を聞いたばかりの香澄くんのイトコのことが思い浮かんだ。
ヤンキーだから、会わないようにってことだったかな?

でも、伊月くんは全然怖くなかった。
たぶん、私より身長が低い。
丸顔で可愛らしい顔立ちをしている。
童顔なだけかもしれないけど、年もいくつか下に見えた。

「なんだテメェ、俺のこと知ってんのか? 香澄のヤロウがなんか言いやがったか」

「ううん、楓さんから名前聞いただけ」

「楓姐さんか‥‥」

香澄くんの名前を出してるときはオラオラといった様子だったのに、なぜか楓さんの名前が出ると動きが止まってしゅんとしたように見えた。

「楓さん、オレのことなんか言ってたか?」

「特には‥‥」

「そっか‥‥おい、オマエ。金持ってるだろ。なんか奢れ」

近くにあった自動販売機を親指で示しながらタカられる。

断ったらジャンプさせられたりするのかな。
ポケットの小銭がチャリーンって。
これがカツアゲってやつ?

「いいけど、なに飲む?」

香澄くんのイトコだし、私はちょっと伊月くんのことが気になっていた。
私の知らない香澄くんの話とか聞けないかなと下心があった。

ジュースを奢れば、飲んでる間は話が出来るかもしれない。

「コーラ」

私が小銭を入れると、迷わずそのボタンを押した。
やっぱり、なんか可愛い。
ヤンキーというか、吠えるチワワに見えてきた。

私はカフェオレを買って、プルタブを開けた。