「直月先輩、私がやりますよ」
えっ?
「リボンを結ぶのは、男子より女子の方がうまいんです。だって、毎朝結んでいますから」
やめてよ、柚葉ちゃん。
私のリボンを、直月から奪わないで。
悲鳴を上げたいほどの心の痛みは、誰の心にも届かない。
「亜里沙先輩、今日の髪形も似合ってますね」
柚葉ちゃんはエンジェルスマイルを浮かべながら
「大人っぽくて、素敵です」
私の胸元に、リボンを結び始めた。
私は笑顔が作れない。
表情筋が、持ち上がろうともしてくれない。
おかしいなぁ。
スマイルなんて、脳に命令しなくても作れていたはずなのに。
涙がこぼれないだけ、まだましか。
そう自分に言い聞かせてみるけれど。
うつむいていると思い出しちゃうんだ。
くっきりと、はっきりと。
直月が柚葉ちゃんだけに見せた、さわやかな笑顔を。