「今年の研修員ですよ」

 店長の返答に、ああ、と合点がいった。

「ディーラー研修か。どうりでスーツが借り物に見えるわけだ」
「この時期の風物詩ですね。といっても、うちはお客様の大半が富裕層ですから新人に相手をさせられず、特に今年は店長も不在ですから教育が……」

 あらためて店内を見渡せば、彼女以外にもスーツに「着られている」状態の社員がちらほらと見える。彼らは一様に、退屈そうな表情で隅に固まっていた。指導できる者がおらず、実質的に放置されているのが明らかだ。

 新人のうちで積極的にフロアに出ているのは、彼女ともうひとりの女性くらいらしい。もうひとりのほうは制服を着ているから、本体ではなくセールス側の新入社員か。

「では今日は俺が店長をしても? ラインナップはすべて頭に入っている」
「いいんですか? むしろ助かります。なにしろ人手が足りないもので」
「そのようだな。しかしこのままではいざ接客するときに……ああ、見てみろ」

 凌士はフロアの一角を目で示す。
 そこでは先ほどの彼女が、恰幅のよい老齢の男性客に質問を受けたところだった。
 はきはきと気持ちのよい表情だった彼女の顔が、しだいに曇っていく。