(式では思いきり、あさひを美しく飾って……)

 本人は凡庸だと言っていたが、あさひはじゅうぶん美人の部類に入る。華やかさよりも、しとやかさが前に出る分、気づかれにくいだけだ。
 だからドレスをまとえば、見違えるほどの変貌を遂げるに違いない。
 少女のように可憐で、そのくせ女神のようにたおやかになる姿が容易に想像できる。列席者の誰もが、末代まで語りたくなるだろう。
 新婚旅行は、あさひが望むなら半年くらいかけてもいい。ふたりで世界中を回っておなじものを見聞きし、味わい尽くす幸せは格別だ。

 新居についても、物件を探させている最中だ。揃いのグラスで朝食を楽しみ、夜はなんでもない会話を弾ませ、ひとつのベッドで抱き合う。

(まさに幸せだな)

 表情こそ変えないものの、凌士の心はあさひとの結婚生活に完全に持っていかれていた。

「背中を押してくださり、ありがとうございます。私も本部長を見倣いますよ」
「いい報告を待ってるよ」

 にこにことしてフロアを出ていく本部長と入れ違いに、社員がぽつぽつと出社してくる。始業まであと二十分。思ったより話しこんでいたらしい。

 凌士は資料の冊子にブックマーカーを挟み、メールチェックを始める。やがて出社する社員の中にあさひの姿をみつけた。
 凌士が口元をほころばせると、頬を染めたあさひがこっそりと笑みを返してくる。

(ますます可愛くなってきたんじゃないか? これは、できる限り早いうちに……)

 凌士は再度、時間を確認してからあさひの席に向かう。あさひは自席についてパソコンの電源を入れたところだった。

「碓井、少しいいか」

 戸惑いを見せるあさひにかまわず歩き出すと、凌士には甘やかとしか思えない足音がついてくる。
 このときの凌士は、これから話すことにはなんの問題もないと思いこんでいた。