地面を叩きつける雨が、あさひの心配を否が応でも募らせる。濡れたアスファルトが、店先の照明を受けて浮かび上がった。
 大雨というより、もはや豪雨のレベルだ。雪ではないだけ、まだましなのかもしれないけれど。
 凌士を会社まで迎えにいこうと決め、あさひが折り畳み傘を広げて店を離れたときだった。

 大通りの横断歩道を、凌士が傘も差さずに走ってくるのが目に入る。あさひは折り畳み傘を広げ、横断歩道を渡り終えた凌士に走り寄った。

「凌士さん!」
「悪い、遅くなった」
「そんなのいいですから! それよりずぶ濡れじゃないですか」

 スタンドカラーのロングコートが、雨に濡れて色を変えている。スラックスの裾もそう。革靴にも雨が染みてしまっている。
 なにより、顔に張りついた髪からこめかみへ、雨が筋を作って流れていた。
 あさひは傘を差しかけようと、さらに凌士に近づいた。ところが、凌士はあさひから離れようとする。土砂降りの雨は続いているのに。

「なんで避けるんですか。入ってください」
「これくらい問題ない。それより、あさひが濡れるだろう。ちゃんと傘を差しとけ」
「それはわたしの台詞です!」

 あさひはぐっと身を乗りだし、凌士の腕をつかむと強引に傘の中に入れる。
 凌士はわずかに息を荒げていた。会社からずっと走ってきたのかもしれない。