ごく小さな刺激にも以前より敏感になっているのが、恥ずかしい。あさひは必要以上に息をつめてじっとした。
 凌士が両方のピアスを付け替える。

「やはり似合うな」

 凌士が満足そうに、あさひの耳朶を繰り返し撫でる。嬉しさを隠そうともしない。あさひは、くすぐったさに首をすくめる。
 ふいに、胸の奥にもくすぐったい気持ちが湧きあがった。
 反対に、これまで拭いきれずにいた戸惑いが消えていく。

「ありがとうございます。すごく、すごく嬉しい……! 職場でもつけますね」
「ああ。自分に夢中になっている男の存在を、周りにも示しておけ。特別な女だ、とな」

 その言葉が、態度が、表情が、どれほどあさひに自信を与えてくれるか。凌士は知らないのに違いない。

 あさひは、胸に生まれたむず痒さをそのままに、ピアスに触れて感触をたしかめる。

「そろそろ行くか。いい一日だったな」

 たとえば凌士とこの先も一緒に過ごしていけば、とあさひは手を引かれて駐車場まで歩きながら考える。
 そのときはもっと、凌士のいろんな顔を見られるのかもしれない。子どものように懸命になる姿も、心から満足した無防備な笑顔も。

 酔いそうなほど、甘く見つめるまなざしも。

 もっと。

 あさひは、それを楽しみだと初めて素直に思っている自分に気づいた。

(もっと見たいし、凌士さんをもっと知りたい)

 これまでは、凌士のまっすぐな想いに応えるのが怖い気持ちを、捨てきれなかった。でも、初めて違うと思える。
 八年なんて大それた長さを想像する勇気は、まだ持てなくても。

(もっと、一緒にいたい)

 否定できないほどに大きく膨らんだ気持ちに後押しされ、あさひは繋がれた手を自分から深く絡め直す。

「凌士さん、またこうやって会いたい……です」