それに、そんな抱きかたをされると、一度でも疲労困憊になってしまう。明日、凌士の前で仕事ができなくなるのだけは避けたい。

「だが、まだ足りない。あさひをもっと感じたい」

 色香を増した声に、あさひは背中をぞくりと震わせた。

 一心に求められたら、今にも屈服しそうになる。あさひも、離れたいわけではないのだから。
 逡巡するあいだも、凌士の手によってやわらかな膨らみが形を変えていく。

「俺にこんな感情を教えたのはあさひだ」
「……っ! 待って、ほんとにダメですっ……。これ以上は、明日使い物にならなくなりますから! ね? また明日、会社で」

 あさひはこの時間にまだ浸っていたい気持ちを振り切って、凌士の手を押しのけると、そそくさと服を着て自宅へ逃げ帰った。
 それでもしばらく、凌士に与えられた熱は容易には引かなかったけれど。




 あさひたちが制作し、冷ますために窓辺のテーブルに並べられたグラスは、きらきらと冬の初めの光を反射した。
 ぽってりと底部の丸いグラスに、明るい色を載せた模様。凌士は青、あさひは黄色だ。あさひの色は凌士が選んだ。凌士によると、「あさひはそのまま、朝日のイメージだからな」ということらしい。どちらも、いびつながら手作りならではの味わいがある。使うのが楽しみだ。

 凌士は工房のカウンターで、できあがったグラスの配送手続きをしている。
 それを待つあいだ、あさひがグラスを眺めていると、だしぬけに別の女性客に話しかけられた。

「ここ、結婚が決まったカップルとか、新婚夫婦のお客さんが多いんですって。あなたたちもそんな感じ?」

 あさひより二、三歳上だろうか。ストレートのロングヘアを片側にまとめて流した女性からは、活動的な雰囲気が漂う。ゆるいワークパンツを履いたカジュアルスタイルが小慣れていた。

「いえ、まだそこまでは……」

 あさひが凌士との関係を示す言葉を探しあぐねると、女性はそれだけで察したのか、深く追及せずにうなずいた。