それからというもの、週に二度は勇太君から誘いがきて、私は図書館へと向かった。お陰であれだけ山積みだった宿題も、もう終盤。しかし、それ以外の時間を受験勉強に費やせない自分がいたのも事実だ。

 暇を持て余しては友人に連絡を入れて、相手をしてもらえたりもらえなかったり。どちらかといえば、断られる方が多かった。
 受験生の夏は、夏期講習や短期集中塾などで、皆一様に忙しい。「親が勉強しろって、うるさいんだもん」などと不満を漏らす友もいた。

 今日の夜も父は不在、行き先は奈緒さんのスナック。私はひとり、家で過ごす。尻に火をつけてくれる母でもいれば、私も今頃熱心に、机へと向かっていたのだろうか。


「おい乃亜、そろそろ宿題やらねえとやばいぞ。俺、ひとつもやってない」

 とある週末、夜十時。陸からの着信。

「もー、こんな夜に電話してくるなしー」
「ごめんごめんっ。寝てたの?」
「ううん、すっごい起きてた」
「だったらいいじゃんかよ!とにかく作戦会議だ、今からいつもの場所集合なっ」

 私がコンビニの前へ着くと、ふたつのカップを手にした陸が待っていた。

「はい、これ。乃亜の分」

 湯気立つホットのブラックコーヒー。陸は私の好みを、ちゃんとわかっている。
 店の傍に腰を下ろした陸は聞く。

「夏休みの宿題、乃亜もまだ全然やってねえだろ?今年はいつやる?」

 陸と会うのは、川辺で子供達の花火を眺めた以来。真剣な話を有耶無耶(うやむや)に終えたにもかかわらず、普段通りに接してくる彼。いや、あの告白がおふざけだからこそ、もしかしたら普通にできるのかもしれない。彼の本音はわからない。
 喉を通っていく体温より熱い液体に、汗が滲む。

「今年の宿題はさ、私もうすぐ終わるんだよね」
「おいおいまじかよ。やるならやるって言えよ。俺ひとりだけ焦るだろうがっ」

 焦慮した陸をははっと笑って、私も彼の隣でしゃがみ込む。

「でも、長期休みの駆け込み宿題は陸との恒例行事だから、残りは一緒にやろうよ。手伝ってあげる」

 その途端、彼は無邪気に微笑んだ。

「よっしゃ!」
「いつにする?」
「明日!俺んち!」 

 こんな些細なことでガッツポーズまで作るものだから、腹を抱えて笑ってしまった。