(かおり)さんから……事情は聴いている。しかし、どうしても納得できなかったので君の居場所を調べさせてもらったんだ」

「そう……でしたか」

香は花蓮の母親だ。といっても実の母親ではなく、産みの母親は葉子(ようこ)という。葉子は花蓮を生んだあとすぐに病死している。もともと体が弱く、姉のゆかりを産んだときも危なかったらしい。

二人目となる花蓮を産むのは、親戚中に反対されていた中の出産であった。
父親の勲は子どもたちに母親がいないことを不憫に思いすぐに再婚をした。

その再婚相手が育ての母、香となる。
香は勲の学生時代の恋人であった。
ふたりが別れた後、勲と葉子が政略結婚をしている。

両親にはそんな事情があり、ゆかりと花蓮は香との関係は良いものではない。
香はのちに生まれた弟、真幸(まさき)のみを溺愛し、留守がちな勲の気が付かないところでひどい仕打ちをすることがあった。

そんな香が、花蓮の現状を、昴にどんなふうに吹き込んだのか。

なんて答えれば良いのかわからなくて声を出せずにいると、昴は花蓮の背後の玄関扉を見て眉をしかめる。

華やかな世界で生きてきた昴にとって、管理も行き届いていない古いアパートは衝撃的だろう。
上階や隣の住人の生活音が聞こえ、おさまりの悪い建具は軋んだり閉じなかったり。虫がでて叫んでしまう時もある。そんな環境に慣れるのに、花蓮も時間がかかった。

「相手の男は何をしているんだ」

「え?」

男と聞いて、俯いていた顔をあげた。

「見たところ、生活が苦しそうだ。生活能力のない男を愛し全てを捨てて飛び出すほど、俺との結婚が不服だったということか」

頭から足先まで、一通りした視線にカッと頬が熱くなった。
品定めされたような気分だ。