『お前まで煩わせるな』

勲は視線も合わせずに吐き捨てる。
幼いころは愛情があったように思えたのに。いつからだっただろう。

(――――弟が……生まれてからかも)

祖父母は、跡継ぎとなる男児を心待ちにしていたから。
弟が産まれたとき、勲が弟を抱きながら、香にプレッシャーだったろうがよくやった、というようなことを話していた記憶がある。

勲も祖父母も香をできた女だと褒めていて、跡継ぎの男児を産めなかった葉子を子蹴落としていた。
当時、全部を理解出来ていたわけではないが、幼心にそれを気分良くは思うことはなく、褒められた香にも弟にも嫉妬した。

葉子から生まれ、さらには女である自分はいらないと言われているような気分だった。

(わたしは、この人たちに何を期待していたのだろう)

弟が生まれた瞬間から、疎ましい存在となっていたのだ。

そんなことにも気が付かず、気持ちを殺して、機嫌をとって……。言いなりの人形のように暮らしてきた自分が悔しかった。

(馬鹿みたいだ。馬鹿みたいだ)

いつの間にか噛んでいた下唇から出血していた。
じくじくとした痛みが次第に大きくなる。

『はぁ』

香はわざとらしくため息をついた。

『何もわかっていないくせに口を出さないで頂戴。事が落ち着くまで外出も禁止です。部屋に籠っていなさい。勲さん、やはり海外の施設を探しましょう。国内は……』

『わたしが育てます‼』

ふつふつと沸いていた怒りが爆発して、気が付けば香の声を遮って叫んでいた。

『何を……』

『育てられる環境もあって人もいるのに、施設に預けるなんて間違ってますっ』

『くだらないことを言うな。花蓮ひとりで何ができる』

勲は一蹴した。

『どこの馬の骨かもわからない男の血筋など、早間に入れることは許さん。お前には桜杜との婚約があるだろう。いいから部屋で大人しくしていなさい!』

『早間で育てるとは言いません。……わたしがこの家をでれば問題ないですよね?』

『なんだと⁉』

勲が激高する。
大きな声に、花蓮はびくりと肩を揺らした。

(怖い……)

殴られでもしそうで、身を竦めた。