涙ぐんだ目ではなんの迫力もないだろうが、それでも負けたくないという気持ちだった。

『あんな学も家柄もない男と順序も守らずに子供をつくるから、こんなことになったのよ。大人しく家の事を考えて行動してくれていれば起こらなかったこと。
ゆかりも騙されていたんじゃないの? 早間の娘と知って、財産狙いだったのかもしれないわ』

『お姉ちゃんを悪く言わないで! それに大樹さんは優しくて素敵な人よ! そ、そんな騙すとか……』

どうしてそんなに酷い事ばかりを言えるのだろう。
家族として愛せなかったとしても、長く一緒にくらしてきたのだ。
情くらい湧かないのか。

(わたしたちが、一体何をしたって言うの……?)

悲しくて、悔しくて。
どれほど寄り添おうとしても、絶対に振り向いて貰えない。
目を合わせようとしない勲が憎くなった。

香と結婚できなかったのは、すべてが葉子のせいだったのか。

『“大樹さん”?』

香ははっと乾いた笑いをする。
そこで、怒りにまかせて大樹の名前を出してしまったことに気がつく。しまったと思っても後の祭りだ。

『あなたも以前から会っていたってわけね。姉妹揃って親を騙して……小賢しい真似をするところが葉子にそっくり。わたしから勲さんを奪った時もそうだった。表では良い子ぶって、裏でコソコソと……あなたもゆかりも、本当大嫌いよ』

わかってはいたが傷ついた。
子供の頃、母として頼れるのは、香ひとりだけだった。

彼女は嫌々だったとしても、長年一つ屋根の下で暮らしてきたのだ。それなりの思い出はある。
いつかは認めて貰いたいという希望をもって従順に過ごしていたが、もう無理だ。

やはりこの人とは家族になれなかったのだ。