病院からの帰り道、無理矢理右折をしようとしたトラックと衝突し、ふたりは即死。
子どもだけが、チャイルドシートと座席の隙間に入りこみ、奇跡的に擦り傷と打ち身だけで助かった。

娘の行方と結婚と出産の事実をその時初めて知った両親は、娘を失った悲しみより世間体を気にして毒を吐いた。

『信じられない。家を飛び出しただけじゃなくて子どもを作っていただなんて。それにこんな事故を起こしてくれて……。ねえ勲さん、こんな話が世間に知られたら大変だわ』

『情報は止めてある』

勲は香より動揺しているようだが、それでも実の娘が死んだというのに非情だった。

今、そんなことを話すべきなのか。
ふたりに対してどんどん不信感が募った。

『子どもはどうするの? 引き取るなんて嫌よ』

香りの苛々とした声がリビングに響く。
落ち着かないのか、ソファにも座らずうろうろと歩き回っていた。

『いや、しかし……施設に入れるのもまずいだろう』

『そうね。週刊誌にでも嗅ぎつけられたら、会社の経営にも影響がでるわ。どこか遠い親戚で、子どもの居ない夫婦いなかったかしら。それか海外の施設とか……』

やっかい払いをするつもりか。

(わたしたちの存在ってなんだったの……?)

悔しくてたまらない。これほどまでに肉親に怒りを感じることがあるだなんて。

『お父さんもお母さんも、さっきから何を言ってるの? お姉ちゃん、死んじゃったんだよ……?』

『花蓮は黙っていなさい。ゆかりがやったことが、どれだけ早間の名前を傷つけているかわからないのか』

勲にぴしゃりと言われて、涙が滲んだ。

『まったく、いつまでたっても家を継ぐという自覚がなくて……』

『……この家を出なくてはいけないほど、追いつめられただけなのに……』

ゆかりのせいじゃない。
事故だって落ち度はなかった。
ただ愛されたかっただけ。

幸せになりたいと願ったたわけなのに、実の父にまで理解して貰えないなんて。

『あら、わたしたちのせいだって言うの?』

香の冷たい視線に、花蓮も唇を噛んで睨み返した。