結婚相手は普通の会社員で、戸田大樹(とだだいき)と言う。
ゆかりより十歳年上の穏やかな性格の人だ。

怒ったところを見たことがなくいつもにこにこしていて、そんな彼の優しさに包まれたゆかりは幸せそうだ。
ふたりは小さなアパートに住み、慎ましやかな暮らしをしていた。

反抗心を持ちつつも、自分は親の庇護の元で呑気に暮らしていたにも関わらず、ゆかりはしっかりと自立し、以前よりも頼もしい存在になっていた。
妊娠七ヶ月だというゆかりのお腹はぼっこりと膨らんでいた。

花蓮は、どんどんお腹が大きくなるゆかりの家事手伝いするため。
それと、今までの寂しさを埋めるように頻繁に会いゆかりを手伝うようになった。

つわりや胎動の経験談を聞き、いつか自分も愛する人と……と夢を見た。

夫婦と一緒にエコー写真を眺め、成長を見守った。波打つお腹に手を当てて胎動を感じると我が子のように思え、産まれてくるのが待ち遠しくてたまらなくなった。

予定日を二日すぎた日の夕方、ゆかりから出産のため入院すると連絡がはいった。
わずかな陣痛が始まったらしく、電話越しの声はめずらしく高揚していた。

とうとうこの日が来た。

いつ産まれるのだろうと興奮しっぱなしで、花蓮はその晩なかなか寝付けなかった。

大樹から、朝方にもう少しで産まれそうだと連絡があってからさらに一時間後、やっと産まれたとメールが届いた。
女の子だ。
メールには写真が添付されていて、目元と鼻筋がゆかりによく似た子が写っていた。

なんて可愛いんだろう。

大好きな姉から産まれたからか、それとも胎内から成長を心待ちにしていたからか、赤ん坊は特別に可愛く見えた。
早く会いたい。
抱っこをして、頬ずりをしたい。

しかし、誰に見られるかもわからないから産婦人科に面会に行くわけには行かないので、退院を待ち、出産から五日後の退院の日にふたりの住むアパートへ行く約束をした。

産後は動くのが大変だと聞いたから、到着時間を合わせて向かう。

早く家を出すぎたのか先にアパートに着いてしまい、ふたりの到着を待っていたとき、香から連絡が来た。
ゆかりと大樹が、交通事故に遭ったという連絡だった。