桜杜ホールディングスの経営する桜杜百貨店、銀座にある店舗の高層部に役員フロアはある。そこからは、都内が一望できた。

日は落ちてきて、ガラス張りのショーウインドウが明かりを照らす。朝から会議を数本終えた昴は、ぼんやりと光り出した街をぼーっと眺めていた。

目を凝らしすと頭にズキンと痛みが走り、こめかみを指でマッサージする。悩みすぎて頭が痛くなるなど初めてだった。

「いつまでもウジウジしているのやめていただけますか」

溜め息混じりに苦言を呈した但馬を、昴は振り向き様にじろりと睨んだ。

但馬の嫌味に現実に返ると、世界を遮断するように勢いよくブラインドを閉めた。不満を全身でアピールし、革張りの椅子にどさっと座る。

その所作は子供のようだと自覚しつつも、八つ当たりをしないとやっていられなかった。

「上司にそんな口をきくのはお前くらいだ」

仕事に集中出来ていない自覚はあるが、ウジウジとは聞き捨てならない。

「奴隷のような秘書なんかやりたくないといったわたしに、“とんでもない。実質相棒だ、参謀として片腕となってほしい” と言ったのは誰でしたっけね。対等な関係を求めておりませんでしたか。雇用契約に齟齬があるようでしたら、いつでも元の部署に戻していただいてけっこうですが」

「――実に口が達者で……心強いよ」

さすがの記憶力だとぼやき、昴はすぐに降参をした。
今秘書を辞められたら困る。

「ついでに、俺に問題解決のための時間をつくってくれないか。そうしたらもっと頑張るよ」

花蓮と会ってから一週間。

慌ただしく別れ連絡先も交換できなかった。また会いに行きたいのに、それが出来ずに時間ばかりが過ぎる。

彼女の態度は腑に落ちない。
もっと話をしたかった。

「もう諦めたらどうですか」

但馬は冷たかった。