「あ、副社長! っあー! もうっ!」

但馬の憤った声がした。
しかし追ってくることはせず、背を向けて電話をかけ始める。このあとのスケジュールの調整に入ったのだ。

(悪い。でも賢明な判断だ)

昴はこの場を引く気はなかった。
すでに五分だけなどという約束はとっくに破られていて、朝一の会議に遅れることなと、どうでもよくなっている。

今さら、仕事より花蓮を優先したって遅いのに。

(こんな気持ちで仕事など出来るわけがない)

駆け落ちの相手に遭遇してしまう可能性もあったが、昴はどんどん歩調を速める。

幼子に笑いかける花蓮に、嫉妬心が燃え上がる。
彼女は俺のものだ、と全身の血が叫び沸騰するようだった。