ここ数年、桜杜の事業が横ばいの為だ。
早間は早々に見切りをつけたいのかもしれない。

海外の会社から買収の話も聞こえてきて、それだけは避けなくてはとやっきになった。

花蓮を幸せにしてやるのは自分だ。

それはふとでた感情で、情なのか今更他の男に取られたくないと思ったのかは、はっきりとしない。

ただ、不平不満などこれまで一度も表にださなかった花蓮が、自分を頼って打ち明けたことが胸を打った。そこからはどんどん花蓮にのめり込む。

無口なのは気を使ってくれていただけで、こちらが心を開くと彼女はよく笑うようになった。
その笑顔を早く独り占めしたくて、仕事に打ち込んだ。

三十までには仕事を軌道に乗せ、彼女を迎えて添い遂げる。
彼女が夢見ていた、愛情あふれる和気あいあいとした家庭をつくる。

そんな人生プランを立て、誠実に付き合い大切にしていた。

早間にとって昴という存在はより良い条件の会社が現れた時に、すぐに切れるようにしておきたい存在であった。

何時でも鞍替えできる状態にしておきたかったのだろう。手を出したら縁談は破談だと言われていたし、花蓮は鳥かごの鳥のように管理され、門限もあり外泊などできなかったから、愛するチャンスがなかったという理由もある。

早間の気が変わらないうちに外堀を埋める必要があった。

だから寝る間も惜しんでがむしゃらに働き、短期間で新たな事業展開を進め大幅な利益アップをもたらした。


そして、やっと花蓮を迎える準備ができたと思った途端、――――彼女はこつぜんと姿を消した。

それが、一年半前のこと。