それはそうだろう。今までで大して感心を寄せていなかったのだから。
向かい合わせだった席を隣に移動すると、逃げられないようにする。

「す、昴、さん?」

「花蓮。言うことを聞きなさい。俺をちゃんと安心させて」

その時、噴火でもするように花蓮の顔が赤くなったのを覚えている。
彼女に完全に落ちたと自覚したのは、この時だったかもしれない。

純粋で初心で、守りたいと強く思った。

確認した腕は大きな痣になっていた。治療方法はなく、その時昴は、患部に手を添えることくらいしかできなかった。

子どもをあやす様に怪我に触れないように撫でてやると、照れながらもうれしそうにはにかんだ。

その顔は昴の庇護欲を駆り立てる。

その後、花蓮の事情を知ることになり、怪我は母親から受けたものであると知って、衝撃を受ける。

母親が実の母ではなく、うまくいっていないこと。

姉も同じ状況だったらしいが、どこぞの御曹司と結婚させられそうになり、二年前に家を出てしまっていた。

今は連絡をとりあっているものの、暫くは心のよりどころであった姉がいなくなり、精神的に辛かったようだ。

継母からのいじめなど、ドラマのようなことがそうそう起こるはずもない。

早間は名門だし、香もそこそこの家の娘だ。そんな幼稚なことをするわけないと、そのときは話半分で聞いていたが、その後、調べれば調べるほど暗雲は立ちこめた。

しまいには、桜杜との婚約者関係を解消し、新たな提携会社へと鞍替えする噂まで出ていることを知り、大いに焦った。