「昴さん、もう社会人なんですね。羨ましいな。わたしも早く働いて独り立ちしたい」

互いに社会人と大学生という立場に成長しても、ホテルで食事か近場にドライブするかくらいしかしたことがない。

その日も、なんの新鮮味もなくホテルのコース料理を食べながら、淡々と会話をするだけだった。

自分はその時、贅沢できるのになぜと返した気がする。
花蓮は眉を下げ、寂しそうに微笑んだ。

「楽かもしれません。でもあんな大きな家で孤独なら、まだひとりのほうが寂しくないかなって……ほら、期待しなくていいじゃないですか」

思いもしなかった話しに返す言葉を失っていると、花蓮は慌てて取り繕った。

「……すみません。こんな話楽しくないですね。昴さんに言っても仕方ないのに……忘れてください」

無理やり笑った顔が今にも泣きそうで、その時、妙な焦りを覚えた。

三人姉弟で両親もいる。それなのに、なぜ寂しいなどと。

俯いた彼女を覗きこむと目が合いう。瞳が微かに潤んでいてドキッとした。
大学に入り少しあか抜けた。
元々綺麗な顔立ちであったが、子供っぽさがなくなり女性らしさが出てきていた。

昴は急に恥ずかしくなって視線を逸らした。
その時、花蓮の腕の内側に痣を見つけた。

「それ、どうしたの。怪我してるの?」

昴が聞くと、ぎくりとした花蓮はすぐに腕を引っ込めた。

「ちょっと、転んじゃって」

「ちゃんと手当てした? 見せて」

「もう治りかけですから」

転んで二の腕の内側を怪我する?
そんなことがあるだろうか。

誤魔化したような笑いを気に入らないと思った。隠されるとムキになる。

「うん。いいから、ちゃんと見せて。恥ずかしいかもしれないけれど、心配してるんだよ」

いつになく強引な昴に、花蓮は眉をハの字にした。