茉白がAmselに行くようになって1か月が過ぎようとしていた。

「おはよう莉子ちゃん。」
今日は通常通りLOSKAに出社する日だ。

「…おはようございます…」

いつもは元気よく挨拶をする莉子だが、なんとなくテンションが低い。

「なんか元気ないね。」

「…そんなことないですよ。茉白さんこそ、なんか今日服装がちゃんとしてますね。ジャケットにピシッとしたまとめ髪…。」

「うん、なんかAmselさんに行くときのクセでキッチリ髪まとめちゃったんだよね。」
茉白は自分らしくない髪型に苦笑いで言った。

「…そんなにAmselさんに馴染んじゃったんですね…」
莉子が残念そうにつぶやいた。

「え…?」

莉子の言葉に茉白がキョトンとしていると、縞太郎が茉白を商談ルームに呼んだ。

(え…)

中に入ると今日は出勤予定の無いはずの影沼もいた。

「おはよう、ございます…」

「おはようございます、茉白さん。」
影沼が笑顔で言った。

「まぁ座りなさい。」

商談テーブルを挟んで、縞太郎の向いに茉白と影沼が座った。

「えっと…何ですか?」

「Amselさんで働いてみて、どうだ?」
縞太郎が聞いた。

「え?うん、まあ勉強になることも多いけど…そんな話?」

「いや、大事な話だ。」

「私から言いましょうか?」
影沼が言った。

「いや、私から言うよ。社内の人事の話だから。」

(人事…?)

「今月末付で影沼君に正式に入社してもらって、うちの営業部長になってもらう。」