「何?俺めちゃくちゃ忙しいんですよね。」

部屋を出ようと立ち上がった遙斗は先程挨拶をしたときより随分威圧的に感じる。

「えっと…資料…」

「資料があるんですか?」

遙斗の問いに茉白は首を横に振った。すると、遙斗はまた溜息を()いた。

「なら—」
「先程おっしゃられたことはリサーチ済みです。今手元に資料はありませんが、会社に戻ればすぐにご用意できるので…もう一度商談のチャンスをください。」

茉白は真剣な口ぶりで、遙斗の威圧感に負けまいと必死で言った。

「話にならないな。今この場の、たった一回のチャンスを活かせない人間に付き合う気はない。」
とりつく島もないような遙斗の発言だった。

「た、たしかに…今この場に資料が無いのは私の落ち度です…樫原さんとの商談が馴れ合いだったって、痛いほどわかりました。」

そう言うと、茉白はシェル型のポーチを手に取った。
「今、手元にご用意できる資料はこのポーチたちです。」

「は?」

「弊社のポーチは日本製にこだわっていて、縫製にも布地の質にも自信があります。データは今ご用意できませんが…こちらに触れて…見ていただいて、もう一度商談のチャンスをいただけないか…ご判断ください…!」
茉白は遙斗にポーチを差し出すと、頭を下げた。


「目の前の商品くらい、見てあげてもいいんじゃないですか?」