「故郷はどうだった?」

 常連の深田がライナスとアイシスに向けて言うと、ライナスは微笑むだけだったが、

「兄上とタキの結婚を父上に認めてもらったんだ!」

 と、アイシスが無邪気に真実を告げてしまった。

 店内、おおお! と、どよめきが起こったかと思うと、すぐに拍手な鳴り響き、多希を赤面させた。

「結婚の許可を取りに帰国したのか、なるほど。でも、半年かかったってことは、説得は難しかったってことか?」

 これは松本だ。常連客は勢ぞろいをしていて、口々に騒いでいる。

「仕事を片づけるのに時間がかかったもので」
「日本に永住となると、いろいろやることはあらぁな」

 松本の横に座っている牟呂が言った。

「それで大喜さんは帰ってこないのか?」
「おそらく帰ってこられると思います」
「本当かい! それはいい!」
「やっぱり、大喜さんの淹れるコーヒーが飲みたいからなぁ」
「俺は多希ちゃんでいいが」
「こういう時は話を合わせるもんだろ」

 大爆笑が起きる。そこにカランと鈴が鳴った。

「おっ! 噂をすればなんとやら、だ」
「やあ、おめでとう!」

 入ってきた客に向けて、常連たちが騒ぎ立てた。

「うるさいよ、あんたら」
「客に向かってなんて口ぶりだい」

 騒々しい中、大喜が中央にやってきて、カウンター席に座った。

「おいおい、大喜さん、座る場所を間違えてるぞ」
「大喜さんが行くのはキッチンだろうが」
「俺は客として来たんだ。孫夫婦が新装開店で店を始めたから、その祝いにさ」

 言いつつ、手に持っている紙の手提げ袋をカウンターテーブルの上に置いた。

「おじいちゃん、はい、お水」
「ああ、アイシス、ありがとう」
「孫に甘いねぇ」
「孫じゃないだろう。ひ孫じゃねぇか?」
「そんなわけないだろうが」

 とにかくとにかく、騒々しい。

 多希とライナスは、そんな賑やかで楽しくて、幸せいっぱいの様子を寄り添って見つめた。

 大喜の荷物は来週届く。明日から新装開店する『喫茶マドレーヌ』は、スタッフ四人で行うのだ。

 多希とライナスはカウンターの下で、しっかりと手を握りあっている。この穏やかで優しい空間をずっとずっと守って行こうと決意して。