翌日、目が覚めたら、やたらめったら目がぼったりして違和感ありまくりだ。
化粧で隠そうと試みるものの、自分ではうまくいったかどうかわからない。とはいえ、これ以上は無理なように思い、多希は立ち上がった。
ダイニングキッチンに行くと、アイシスが一人でテレビを見ていた。
「あ、タキ、おはよう!」
「おはよう。アイシス一人? ライナスさんは?」
「教習所に行った。だから開店の準備を任された」
「そうなの。じゃあ、二人で頑張りましょう」
「うん!」
ガッカリのような、ホッとしたような。
いくら化粧をしてごまかしたとはいえ、腫れぼったい目元をしていたらライナスが心配することだろう。帰ってくる頃には少しはマシになっていることを願うばかりだ。
「兄上が朝ごはん作って行ったから、タキ食べて」
「ありがとう」
テーブルにはおにぎりとだし巻き卵が置かれている。
ライナスは和食が気に入り、いろいろとトライしているのだが、最近ようやくおにぎりとだし巻き卵をマスターして、しょっちゅう披露するのだ。
「うん、おいしい。ライナスさんってば、すっかり和食党になっちゃったね」
「……ねぇ、タキ」
「なに?」
「調子悪い?」
鋭いツッコミに、おにぎりを喉に詰めそうになった。
「どうして?」
アイシスが手を顎にやり、なんだか考えこんなようなゼスチャーをするのだが。
「目がトロンってなってる」
「えっ。そうかな」
「なんか、腫れた感じ?」
「そんなことないと思うけど。ぜんぜん元気だし。それより、早く開店の準備をしよう」
「そうだね」
アイシスはよく見ている。多希は話を切り上げて開店準備に取りかかることで、動揺を見破られないようにした。
ライナスは昼すぎに帰ってきた。いつもよりも時間がかかっているように思ったが、早く免許を取るほうがいいだろうと話をしていたので、複数の授業を受けてきたのだろう。
多希には、ライナスの帰宅時間が遅かったことよりも、彼の態度のほうが大事で、いつもと変わらない様子にホッと安堵した。
(ライナスさんは優しいから私が自分の意志で決められるように、ヘタに惑わせないよう気遣ってくれている)
ドキドキするような甘い言葉をかけることはないけれど、穏やかな表情に、目が合えば微笑んでくれる。それが安定の安心を与えてくれる。緊張は最初だけで、すぐにいつもの調子になった。
何事もなく時間が過ぎていく。
沈んだ気持ちで始まった今日は、あっという間に終わってしまった。
翌日。
「おじいちゃん、起きてる?」
施設にやってきた多希は、大喜の部屋の扉をノックし、スライドさせた。大喜はソファに座っていて、雑誌を見ていた。
「やっぱりカフェの雑誌見てるのね。ねぇ、帰ってきてよ」
「いや。俺はここがいいんだ」
「もう!」
「ライナスさんがいるからいいだろう。こんな年寄りは邪魔だろうが」
「なに言ってるのよ!」
大喜は雑誌を閉じ、横に座った多希の顔をじっと見つめた。その目が意味深だ。
「なに?」
「昨日、ライナスさんが一人で訪ねてきた」
「え!」
驚きの声を上げてから、昨日、教習所からの帰りがいつもより遅かった理由だと悟る。複数の授業を取ったからではなく、ここに寄っていたとは。
「ライナスさん、なんて?」
「お前のことが好きだと言われた。返事に困った」
「ええっ!」
だが、大喜の顔はあまり喜んでいない。それを察して多希も表情を引き締めた。
「そう遠くないうちに国から迎えが来るだろう、お前を連れて行きたいのでそう告げ、返事待ちの状態だとな」
「おじいちゃん、私」
「まぁ聞け」
止められて多希が口を噤む。多希の目には動揺が現れていて、きょろきょろと動いて落ち着きがない。
化粧で隠そうと試みるものの、自分ではうまくいったかどうかわからない。とはいえ、これ以上は無理なように思い、多希は立ち上がった。
ダイニングキッチンに行くと、アイシスが一人でテレビを見ていた。
「あ、タキ、おはよう!」
「おはよう。アイシス一人? ライナスさんは?」
「教習所に行った。だから開店の準備を任された」
「そうなの。じゃあ、二人で頑張りましょう」
「うん!」
ガッカリのような、ホッとしたような。
いくら化粧をしてごまかしたとはいえ、腫れぼったい目元をしていたらライナスが心配することだろう。帰ってくる頃には少しはマシになっていることを願うばかりだ。
「兄上が朝ごはん作って行ったから、タキ食べて」
「ありがとう」
テーブルにはおにぎりとだし巻き卵が置かれている。
ライナスは和食が気に入り、いろいろとトライしているのだが、最近ようやくおにぎりとだし巻き卵をマスターして、しょっちゅう披露するのだ。
「うん、おいしい。ライナスさんってば、すっかり和食党になっちゃったね」
「……ねぇ、タキ」
「なに?」
「調子悪い?」
鋭いツッコミに、おにぎりを喉に詰めそうになった。
「どうして?」
アイシスが手を顎にやり、なんだか考えこんなようなゼスチャーをするのだが。
「目がトロンってなってる」
「えっ。そうかな」
「なんか、腫れた感じ?」
「そんなことないと思うけど。ぜんぜん元気だし。それより、早く開店の準備をしよう」
「そうだね」
アイシスはよく見ている。多希は話を切り上げて開店準備に取りかかることで、動揺を見破られないようにした。
ライナスは昼すぎに帰ってきた。いつもよりも時間がかかっているように思ったが、早く免許を取るほうがいいだろうと話をしていたので、複数の授業を受けてきたのだろう。
多希には、ライナスの帰宅時間が遅かったことよりも、彼の態度のほうが大事で、いつもと変わらない様子にホッと安堵した。
(ライナスさんは優しいから私が自分の意志で決められるように、ヘタに惑わせないよう気遣ってくれている)
ドキドキするような甘い言葉をかけることはないけれど、穏やかな表情に、目が合えば微笑んでくれる。それが安定の安心を与えてくれる。緊張は最初だけで、すぐにいつもの調子になった。
何事もなく時間が過ぎていく。
沈んだ気持ちで始まった今日は、あっという間に終わってしまった。
翌日。
「おじいちゃん、起きてる?」
施設にやってきた多希は、大喜の部屋の扉をノックし、スライドさせた。大喜はソファに座っていて、雑誌を見ていた。
「やっぱりカフェの雑誌見てるのね。ねぇ、帰ってきてよ」
「いや。俺はここがいいんだ」
「もう!」
「ライナスさんがいるからいいだろう。こんな年寄りは邪魔だろうが」
「なに言ってるのよ!」
大喜は雑誌を閉じ、横に座った多希の顔をじっと見つめた。その目が意味深だ。
「なに?」
「昨日、ライナスさんが一人で訪ねてきた」
「え!」
驚きの声を上げてから、昨日、教習所からの帰りがいつもより遅かった理由だと悟る。複数の授業を取ったからではなく、ここに寄っていたとは。
「ライナスさん、なんて?」
「お前のことが好きだと言われた。返事に困った」
「ええっ!」
だが、大喜の顔はあまり喜んでいない。それを察して多希も表情を引き締めた。
「そう遠くないうちに国から迎えが来るだろう、お前を連れて行きたいのでそう告げ、返事待ちの状態だとな」
「おじいちゃん、私」
「まぁ聞け」
止められて多希が口を噤む。多希の目には動揺が現れていて、きょろきょろと動いて落ち着きがない。