「なるほどね。それで、えーっと、メリン? じゃない君も人間になりたいの?」
 月の妖精はバイオレットに聞いた。
「あたしはただの付き添いで、人間にはなりたくないです」
 バイオレットはらしくなく、ちぢこまりながら小さく手を挙げて答えた。
「じゃぁメリンだけ、ということね」
 そう言うと、月の妖精は人差し指を私に向けた。
「人間の姿にする魔法をかけてあげよう。もちろん対価をもらうよ。なにがいいかな。エキザカムの妖精は珍しいからね。羽は魔女に高く売れるんだぁ。でもお金はあんまりいらないしなぁ。それよりエキザカムの妖精の命のかけらはまだ持っていないから、コレクションに加えるのも良い」
 月の妖精は悩み始めた様子で、うーんと腕組みをしている。命のかけらなんていう言葉に、私はぞわりと背筋を凍らせた。バイオレットと顔を見合わせる。お互い青い顔をしている。
 何を差し出すのも怖くはないと決意して来たつもりだったけれど、改めて突きつけられると甘い考えだったと思い知らされる。
 羽を取られたら、私たち花の妖精は生きていけないのだ。人間の姿になったとしても、すぐに動けなくなるだろうと想像する。