「へぇ。面白いことを言うね。君みたいなおチビさんにはできない事だもんね」
 美しい顔で私をじっくりと見る月の妖精に、さらに汗が噴き出てくる。
 オオカミに食べられそうになった時とは違う怖さがあった。
「いいよ。面白そう。その話詳しく聞かせてよ」
 そう言って踵を返すと、トンボの羽の妖精との用事を先に済ませるから待つように言われた。
 私は隣のバイオレットと顔を見合わせ、「やったー!」とバイオレットに抱きついた。
 トンボの羽の妖精の用事が終わると、「じゃぁ頑張れよ!」と壁についている扉から去っていった。「ありがとう!」とお礼を言う。
 けれど、入って来る時は扉なんて使わなかったのに、帰る時は扉から帰るのね。不思議な部屋だ。
「それで、どうして人間になりたいわけ」
 テーブルの上に私たちを座らせ、月の妖精は椅子にどかっと座った。
「実は、人間に恋をしているんです。一度妖精界に迷い込んでしまった人間で、どうしてもその人間と過ごしたくて。妖精界に迷い込んだ時は見えていたのに、人間界では彼は私たち妖精のことは全く見えないみたいで。だからもう話すこともできなくて悲しくて、それなら私が人間の姿になれば彼に会えると思ったんです」
 理由は正直に話した。月の妖精は面白そうに私たちを見ている。