日が高くなるまでその場でそうしていると、トンボの羽の妖精が私たちの元へ飛んできた。
「月の妖精には会えたかい?」
「月の妖精は現れなかったよ」
 返事ができない私の代わりにバイオレットが答えてくれた。
「おかしいなぁ、水面に映った月を追いかけると月の妖精がいるんだけどなぁ。珍しく出かけていたか?」
 トンボの羽の妖精は首を傾げながら私たちを気の毒そうにそう言った。
 私はその言葉にハッとする。
「水面に映った月を追いかけるの?」
 トンボの羽の妖精に勢いよく聞くと、驚いたように「そうだよ」と答えた。
 それは知らない情報だ。
 私の敗因は、下調べをしなかったことだった。
「もっとよく教えて!」
 トンボの羽の妖精に飛びつく。
 トンボの羽の妖精が言うには、満月の夜に湖の水面に映った月の光を追いかけていくと月の妖精の棲家があるということだった。月に一度しか開かない道だが、確かに月の妖精の棲家に通じているそうだ。トンボの妖精も行ったことがあるらしい。
 満月を迎える前に、もっとしっかり月の妖精について聞いておけば良かったと後悔する。しかし、満月はまたやってくるのだ。
 諦めきれない私は、次の満月を待つことにした。
 バイオレットは「心配だから一緒に待つよ」と肩をすくめた。感謝の気持ちを込めて、ぎゅうっと抱きしめた。