「見ない顔だな」
 湖の周りにいるトンボの羽の妖精に声をかけられた。
「月の妖精に会いに来たの」
 そう答えると、「そうか、会えるといいな!」と私たちを快く仲間に入れてくれた。
 
 大きな満月が遠くの山から登ってきた。私は浮き足立ちながら湖の上を見つめる。その隣でバイオレットが心配そうにハラハラとしていた。
 満月が少し小さくなって空の上まで登っていく。
 月の妖精は現れない。
 どんどんと西の空へ沈んでいく月を焦りながら追いかける。バイオレットが「やっぱり月の妖精はただの噂だったんじゃない?」と私を慰めるように言った。
 とうとう月が山に沈んでいってしまった。
「月の妖精は現れなかった……」
 私はがっくりとその場に項垂れてしまった。
「まぁ、妖精だから気まぐれなのかもよ」
 バイオレットが励ましてくれる。
 私は悲しくて、返事もせずに湖を眺め続けた。
 バイオレットは黙って隣に座ってくれていた。